時代を見る目 137 牧師のメンタルヘルス(1) いい・加減の勧め

賀来周一
キリスト教カウンセリングセンター相談所所長

 しばらく前から、抑うつ状態である牧師からの相談が増えてきました。交流分析では、人の日常の生活行動を駆り立てるような命令をドライバー(駆り立てるもの)といいます。ドライバーは五つあって、「完全であれ」、「努力せよ」、「他人を喜ばせよ」、「強くあれ」、「急げ」がそうです。牧師には真面目で誠実な人が多いので、これらのドライバーに支配される傾向があるようです。

 「完全であれ」とは、すべてのことをきちんとしないと気が済まないことです。過度になれば潔癖主義になるでしょう。「努力せよ」とは、何をするにも一生懸命努力をすることなので、簡単なことでも難しく考えてしまうかもしれません。「他人を喜ばせよ」とは、自分よりも他人のことを優先させることです。自分がしてあげたことであの人は喜んでいるだろうかと思い、他人が自分をどう思っているか、何をするにも人の思惑が気になります。「強くあれ」とは、しっかりすることを意味します。自分の感情を素直に出すと弱い自分を感じるので、「あいつがおれを怒らせる」、「あなたがわたしを悲しませる」などと言い、自分の感情を人のせいにしまうかもしれません。「急げ」とは、何事も早く急いでと切迫感に支配されることです。

 たいていの人は、ドライバーの一つや二つは持っています。ひとそろい全部持っている人もいるかもしれません。ドライバーは、この社会を生きていくうえで必要なことだと子どものころから教えられています。「必要なこと」なので、これらに支配された生活を知らず知らずに送っていることがあります。しかも支配されていると何となく満足している自分がいるので、支配されていることに気がつきません。

 しかし、ドライバーに支配された状態は全力疾走をしているようなものです。やがてエネルギーを使い果たすと、いわゆる「燃えつき症候群」に陥るかもしれません。いらいらしたり、怒りっぽくなったり、抑うつ状態になったりするでしょう。「燃えつき症候群」にならないためには、「ここまでにしておこう」、「これをするだけでよいのだ」、「自分も喜んでかまわない」、「自然にふるまう」、「時間をかける」と自分に言い聞かせるとよいのです。もしお得意のドライバーに気付いたなら、自分に言い聞かせる言葉を紙に書いて書斎の壁にでも貼って眺めることをお勧めします。やがて「いい・加減」の自分の生活行動ができあがることでしょう。