定年後の暮らしに備えがありますか 第2回 仕える姿勢が人を動かす

田口誠弘
熟年いきいき会 代表

著者・田口誠弘氏
42歳の時、社内紛争のあおりを受けて左遷・降格。挫折をきっかけに、社員教育、マネージメントの専門家の道を目指す。
バブル崩壊で大損したことがきっかけで1994年、55歳で受洗。現在、有料老人ホーム・コンサルタント、地域での「無料相談」コンサルタント兼カウンセラー。豊かな熟年ライフをサポートするグループ「熟年いきいき会」を立ち上げ、代表となる。
NPOふれあいアカデミー情報ネットワーク担当理事。
ホーリネス・池の上教会員。67歳。
 前回は現役引退後に備え、現役時代に、自分自身の棚卸し仕事の専門能力(縦軸)と趣味・特技(横軸)を絞り込みそれを磨くこと、そして定年後の家庭・地域へのソフトランデングに備えて、心がけることを提案しました。今回はそれを体得する具体的な手法について考えていきたいと思います。

リーダーの仕事はサービス業

 縦軸(仕事の専門能力)と横軸(趣味・特技)、どちらも共通して身に付けてほしい能力があります。それは「サーバントリーダーシップ」です。

 「サーバント・リーダーシップ」とは、リーダーの仕事はサービス業であると定義し、リーダーは部下の成功だけに奉仕すべきだ、とするリーダーシップ理論です。

 この理論は、経営トップや重役だけでなく、現場のリーダーにも有効だとしてアメリカで支持されています。「サーバント・リーダーシップ」を発揮できるリーダーは定年後、家庭でも、地域社会でもスムーズに入り込み、地域活動でも成功できると私は考えています。

 「サーバント・リーダーシップ」を導入して成功している代表的な企業に、アメリカのサウスウエスト航空があります。同社は、「安い運賃」「自由席」「機内食なし」「ユーモアあふれるサービス」などで業績を伸ばしている有名企業ですが、これらを可能にしているのが、経営者のリーダーシップです。同社では、会社の情報を従業員に公開するとともに、適切な利益配分も行っています。

 同社は、九・一一以降の厳しい環境の下でも、フライトスケジュールの変更や、ひとりの人員削減もなく黒字経営を実現しています。

 日本でも、資生堂の池田守男社長が、サーバント・リーダーシップの考えに基づいた経営で、業績を伸ばしています。池田社長は、資生堂が独占禁止法の問題で会社がピンチに立たされたとき推されて社長になりました。最前線の営業部隊が働きやすい条件を整えることに注力して、危機を乗り越えたことで有名です。

利益目標を越えた使命を明確に

 「サーバント・リーダーシップ」を体得するためには、自分の属する職制グループをプロジェクトとして捉えなおす必要があります。自分の属するグループ、係、課または部門の任務・使命は何でしょうか。

 そこには必ず組織、ひいては社会に貢献する明確な任務や使命があります。任務や使命を実現しようとする矢先に、強固な困難の壁(社内外の障害)が立ちはだかります。リーダーが本気でその使命や課題に立ち向かうとき、その困難を乗り越える使命感に燃えた部下や助け手が出現します。最後に涙と感動があります。その勝利の感動を関係者が分かちあいます。

 NHKの人気番組だった「プロジェクトX」を思い出しましょう。プロジェクトをマネジメントするためには、そのプロジェクトにまつわる困難を明確にし、利益目標を越えた使命を具体化する必要があります。

 部長・課長・係長・チームリーダーである人には、困難は伴いますが、実現すれば企業にも部下にも貢献できる課題があります。まずそれを明確にすることが大切です。むしろそれを明確にすることがリーダーの使命ともいるでしょう。

 そしてそれは一年から三年の間に組織に貢献し、その人でなければできない使命・役割は、同時に部下にとってもワクワクするものでなければなりません。それは単なる売り上げの達成などの利益目標を超えたものです。

 常に、使命に向かい主体的なプロジェクトのリーダーを目指すためには、先ほどから述べている「サーバント・リーダー」として必要な思考と行動を身につける必要がでてきます。

 リーダーはプロジェクトの目的と目標が達成できるよう、プロジェトメンバーが活躍できる環境を整えることに徹します。

 メンバーが自発的に仕事に取り組み成果を挙げ、正当に報われるというサイクルを完結させることに粘り強く挑戦してみましょう。この挑戦に成功すれば、企業人としての高い評価と存在感、生きがいとを手に入れるだけでなく、定年後、自立して事業を起こしたり、地域社会で成功する知恵とノウハウをも同時に手に入れることができます。

「サーバント・リーダーシップ」の地域生活での意義

 なぜ組織で「サーバント・リーダーシップ」が成功するのでしょうか。それは、働く側の基本的欲求と合致するからです。人は支持・命令で言われたとおり隷属することを嫌います。人が働く意欲を示す条件は、仕事に意義を感じて、やりたい仕事ができる、自分の能力開発につながる、経済的に安定する、などです。「サーバント・リーダーシップ」には、人のこの欲求に応えるすべてが含まれているのです。

 それが、なぜ地域活動でも適用されるのでしょうか。組織は縦型社会ですが地域は横の関係です。多くの人は組織で経験した「宮仕え」に疲れています。退職してまで上下関係に縛られることを誰が望むでしょうか。

 地域ではいばらず、信念や理念、人格で人を魅了する人物が人を動かします。地域活動の目的や使命を明確に打ち出して、仲間を集め、その得意技を引き出すことに注意深くリーダーシップを発揮すると、その活動は大きく花開くのです。

 私たちは、企業人である間に、社内だけの常識から、外に目を転じて、定年後の社会で通用する価値に目を向ける必要があります。

 組織に所属している間は組織の看板で働くことができましたが、会社の看板で仕事ができなくなったとき、人の協力を得る力がここで生きてくるからです。

 「サーバント・リーダーシップ」を身につければ、あなたは今、企業人として成功し、同時に、地域で成功する特性を組織の中で身に付けることができます。

 その知恵(ノウハウ)は定年後、長期的にSOHO(スモールオフイス・ホームオフイス)などで独立自栄し、安定収入を得る道ともつながっています。

古い価値観を脱いで

 家庭ではパートナーに意見を聞いて配慮する姿勢を習慣づけましょう。特に家事や子どもの教育についてはパートナーの意見を十分聞き結論を出す習慣をつけるように提案します。ここでも「サーバント・リーダーシップ」は生きてきます。休日は会社ときっぱり離れて、休養や趣味、スポーツなどに時間を使う生活をすると改善効果が出ます。

 職場では男女を平等にあつかいましょう。男女のチームワークが断然よくなります。今まですぐに指示を出す傾向にある上司は、我慢して、部下に意見を言わせるようにしてください。聞く時間をしゃべる時間よりも多くし、まかせるほうが成果が出るものです。まかせて、不安に感じるのは上司だけです。

 家庭では娘や息子と世間話をしたり、相談ごとを聴く時間を増やします。自分の居場所ができ、職場から家庭に帰るのが楽しみになるはずです。

 次回は、定年後をともに過ごす家族は、どのようにすればいいのかを一緒に考えていきたいと思います。