天国へのずっこけ階段 第10回 日本語を話す韓国人

松本望美
北朝鮮宣教会所属/韓国在住

 韓国では、日本語を話す人が多い。

 年配の方々が日本語を話せるのは、日韓の歴史を知る方ならご存知なはず。

 さらに、学校で第二外国語として日本語を選択し、学んだことのある人も多いのだ。また、駐在員として日本に住んだ経験のある人、日本のマンガにはまっている、いわゆるオタクな人も多い。

 私は韓国に住み始めたころ、ある大学で韓国語を勉強していた。

 ある午後、ロッテマートに買い物に行き、そこのベンチで、日本語ぺらぺらな韓国人の友人に日本語で韓国語の単語を聞いていた。すると、私たちの目の前でジュースを飲んでいたおばさんが突然私たちの前にやってきてすごい勢いある日本語で「そんなことは、私に聞きなさいっ!」と乗り込んできた。唖然とする私たち。そして「韓国に来たらね、韓国語で話しなさい!」と日本語で怒られた……。

 また、八十歳になるおじいさんも含め、日本語でバイブルスタディをしていたこともあった。そのおじいさんの使う日本語がおもしろかった。

 「望美さんや、この前、あんたが連れてきたおなごは?」といわれ「え? おなご?」と聞き返した。時代劇でしか聞いたことのない単語なので面食らってしまった。

 (余談だが、台湾ではおじいさんに「また、いらっしゃい。“ツルクビ”で待っていますよ」といわれ、これは“首を長くして待っている”という解釈でいいのかと悩んだ。その後、辞書でしらべると、「鶴首(“かくしゅ”とか“つるくび”とも読む)」という単語があることを知って、さらに驚いたのだが……。) 駐在員の娘として、長く日本に住んでいた友だちも日本語が上手だが、“死語”が多いので困る。待ち合わせに遅れてくると「めんご、めんご!」(ごめんの意)だし、「この店の味は、バッチグー」とか、「ナウいカバンですね!」「そうだよ、そうだよ、ソースだよ!」などと言う。彼女が日本にいた時代の流行語だったらしい。

 大学で日本語を学んでいる女性は、「望美宣教師、今日は“カイブツ鍋”を食べに行きましょうか?」と言って来る。「はっ? 怪物鍋っ?」怪物って……一体何が入っているのか……と考えてみると、韓国では「海物鍋」と書いて「海鮮物がたくさん入っている鍋」のことだ。……ああ、びっくりした。すべてバベルの塔のせいか……。

 ことばが通じなくて大変なことはたくさんある。しかし、それを越えてひとつになれたときのうれしさを体験させるために、実は神様はことばの壁をつくったかな、と思うことにしている。