四季の庭から 5 桜桃

桜桃
森住 ゆき
日本福音キリスト教会連合 前橋キリスト教会会員

 実家の敷地の一隅に、さくらんぼの木がある。五月になると、枝という枝にびっしり実をつけるのだが、そのように実を結び始めたのはここ数年のことで、それまでは家人さえいったい何の木だったか長年忘却していたほどだ。ただ植えっぱなしのままけっこうな大木になり、やがて、突然何かの間違いのように盛大に実をつけ始めたのだからずいぶん不思議なことだ。

 いくら美味しいとはいえ老夫婦二人だけでそんなには食べられない。そのさくらんぼの木は、五月の鳥たちをひたすら喜ばせるためにあるようなものだ。次々とせわしなく飛来するさまざまな鳥。それを、二年前に大きなけがを得て、体の機能が実年齢よりもずっと制限されてしまった父がまぶしそうに見上げている。痩せて小さくなった背中を見ながら「この人もここまでよく生きてこられたものだなあ」と思う。

 昭和一桁世代と呼ばれた人たちが、老いと向き合いはじめている。人生の最も多感な時期に敗戦を見て、その後の激動期を働きづめで生き抜いた独特の世代。特に男性は、自らの老いそのものを、再び運命的な敗北を味わうように受け止めている人が多いのではないか、と感じるのは私だけだろうか。

 「天の父、これを養いたまう」。そのことを何とか伝えたいと切に願う。