四季の庭から 3 あひるの春

あひるの春
森住 ゆき
日本福音キリスト教会連合 前橋キリスト教会会員

 自宅近くにウオーキングコースのある公園があり、老若男女でにぎわっている。日中は主婦層と仕事をリタイアしたと思しき中高年男性の姿が目立つ。ほとんどの人が自らに距離のノルマを課してるらしく、黙々と前を見つめ一定の速度で歩いている。その姿は、健康が老後の必須アイテムであることを忘れまいと胸で反芻しているようだ。

 コースのわきにちょっとした池があり、昨年の晩夏に突然、二羽のあひるが住みはじめた。仕草はかわいく、純白の羽は美しい。一躍公園の人気者となったのだが、ある日見ると一羽だけになっている。

 相棒はどうしたのか。野犬に襲われたか、心ない人が持ち去ったのか、と取り残された一羽を呆然と眺めていると、同様に池のほとりにたたずんでいた老婦人が「私は春に主人を亡くしてからここで歩き始めてね。二羽が仲良さそうにしてるのを見るのがとっても楽しみだったんだけれど。どうしたのかしらねえ……」とつぶやいておられた。

 冬が来ると、池には渡りのカモの群れが飛来し、あひるはカモの群の真ん中をゆうゆうと泳いだり、芝生で一緒に日を浴びたりして、それほど孤独な風情でもなくなった。でも、カモの群れは春が来る前にはいっせいに旅立つだろう。

 健康、家族、配偶者、友、そしてこの世界。何もかもが、神さまの御手の中で許された限りある一瞬を生かされていることを思う。