厚い本が今、 熱い! ◆物事を大きな視点から見る!

岡山英雄
日本福音キリスト教会連合 東松山福音教会牧師

私が最初に読んだ厚い本はドストエフスキーの長編小説でした。大学浪人の時です。夏休みに『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』の四作品を一気に読んだことを思い出します。
厚い本を読み通すには、筆者の問題意識、全体のテーマ、主題に共感する必要があります。ドストエフスキーの場合は、悲しみと苦しみに満ちた現代社会のどこに神はおられるのか、という問いかけが全編を貫いており、それは私自身の問いでもありました。
また、語られる大きな物語には独自の空間があり、特別な時間が流れているので、その世界の中に入って、登場人物と一体化して、ともに呼吸し、喜び、悲しむことが求められます。一度その世界に入ることができると、無理なく最後まで読み通すことができます。厚い本を一読して、そのすべてを理解することは難しいものです。けれども分からなかったことを思い巡らし、くり返し読むと、自らの人間的な成長に応じて、その意味が明らかにされていきます。私は彼の作品を四十年間で六回読み返しましたが、そのたびに新たな発見があります。すなわち、人が本を評価するのではなく、本によって人が評価されるのです。
四つの作品を読み終えた時、私は世界が一変したように感じました。ものの見方、感じ方、考え方、捉え方が大きく変わり、また自らの生き方、あり方が鋭く、深く問われていることに気づきました。厚い本には、読む人の人生を変える力があります。

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優れた文学作品、芸術、思想書などはすべてこのような力を持っていますが、その最たるものが『聖書』ではないでしょうか。現代では、この聖書すらも、細切れに、実生活に役立つ手引き書のように読まれがちです。しかし、この人類史上最も偉大な書は、読むたびに私たちのあり方を根源的に問い直します。そして、日々私たちを新しく造りかえていきます。
現代は、時間や思考が切れ切れになり、簡単で便利な即効性のあるものが求められがちです。しかし厚い本を読むことによって、ばらばらな出来事がひとつの大きな物語の中に統合され、長期的な見通しや、展望が与えられます。創世記から黙示録まで貫かれた大きな物語、歴史の真実によって、私たちの人生はひとつの意味あるものとして統合されていきます。断片化した情報のやりとりで人と繋がっているのではなく、神の前で一人になる、孤独の中で静まり、ゆっくりとした時間の流れの中で、神の光に照らされて、自らを、世界を、歴史を見つめ、新しくされていくという体験をするのです。

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拙著の『ヨハネの黙示録注解』は、三十年の学びの結実です。執筆中にヨハネの黙示録を何度も通読しましたが、全預言の頂点に立つこの書の偉大さ、その壮大な世界観、歴史観に圧倒される思いでした。また黙示録こそ、ドストエフスキーの問いに答える書であることに気づかされました。
この注解は、東京、神戸、埼玉で三回行った黙示録の講解説教の原稿に基づき、イギリスで書いた論文の成果も取り入れています。黙示録が日本の教会の講壇から語られるために用いられるように願っています。
また信徒、求道者、一般の方々が自分で読んで理解できるように、平易で明快な表現を心がけました。そのために初稿では六百頁を超えていましたが、五年かけて十数回書き直し、四五〇頁の書となりました。
さらに、黙示録に隠された多くの宝によって霊的に恵まれ、日々のデボーションに用いられるように、私自身が教えられたことを書き記しました。
厚い本ですが、この注解が黙示録の偉大な世界の扉を開く小さな鍵となることを願っています。

『ヨハネの黙示録注解』
岡山英雄 著
A5判 3,600円+税