ブック・レビュー 聖書・宗教改革・そして現代


三好 明
日本キリスト教会 志木北伝道所牧師

この書物には、第一部に池永倫明牧師が教会の主日礼拝でした説教の要旨が、第二部に東京の蒲田御園教会の牧師を辞した後、兵庫県三木市の自宅で行った読書会においてした発題が、それぞれ収録されている。説教が基づく聖書テキストは、創世記からヨハネの黙示録まで幅広く、それぞれのテキストが現代的課題との関わりの中で解き明かされている。しかし、聖書テキストから一足飛びに現代に飛ぶのではなく、宗教改革者の遺産に謙虚に耳を傾けつつ、現代的課題に向き合っていることが、一連の説教の特徴である。
たとえば、十戒の第一戒の説教においては、スイスの宗教改革者ブリンガーの見解が丁寧に紹介されている。すなわち、神は「民が奴隷でなく、人間としての尊厳をもって自由なものとして、真の創造主、契約の主の相手として、与えられた自由、良心、知恵、能力を傾け、主に従い、服従して生きることを求めておられる」「しかも、勝手気ままに生きるのでなく、神のみこころに従う秩序をもって生きる民となること、そのためにこの世界を恐れている民を恐れから解放するために、第一戒が憐れみ、愛のみこころによって神より授けられている」(一二頁)という見解である。そして、その後に「現代のように科学技術が進み、民主主義の社会になっていると言われる時代でも、絶えず偶像が形をかえて入れ代わり新しい装いのもとで現れます」と現代的課題に向かっている。聖書の使信を、宗教改革の伝統に立ちつつ、現代的文脈において語る著者の姿勢には、揺るぎない安定感と現代的課題への洞察の両者がある。
第二部では、バルト、ホーフト、ニーゼル、レヴィナスについて、それぞれの生涯と神学・思想がわかりやすく解説されている。先の三人は改革派の神学者であるが、レヴィナスはユダヤ人の哲学者である。読者にこれらの神学者・哲学者への関心を呼び起こさせるまことに興味深い解説である。
『イサクの縛り』
池永倫明 著
B6判 1,600 円+税
いのちのことば社発売