ブック・レビュー 殉教者の信仰を証しする

 『岐路に立って 父・朱基徹が遺したもの』
朱光朝 著
野寺恵美 訳
単立鶴川キリスト教会信徒伝道師

韓国では、日本を「宣教師の墓場」「宣教の荒野」と呼んでいます。世界宣教の中で、もっとも福音を伝えることが難しいという意味です。これは本書の著者、朱光朝のことばです。著者の父、朱基徹牧師は、戦前の朝鮮で、朝鮮総督府が強制した神社参拝を拒否し、キリストへの信仰を貫き、殉教した牧師です。
殉教者は、殉教のことばを残さない、と言われています。殉教者の信仰を証しするのは、後に残されたキリスト者に託された使命です。殉教した朱基徹牧師の信仰を証し続けてきたのが朱基徹の四男、朱光朝でした。彼は、殉教した父、朱基徹牧師について次のように証言しています。
「長年受けた肉体的苦痛、愛する家族と別れる心の痛み、そして中会で牧師職を罷免され、同僚の牧師から非難され、同時に愛する羊の群れから引き離されたその苦しみが、父に一層の苦痛を味わわせたのだと思います。それは、当然従うべき神さまの命令に従い抜いた、断固たる父の信仰のためだったのでしょう。それを父は『一死覚悟』という説教の中で表現しました」(三六頁) 
著者のことばから、信仰とは何であるかを教えられます。
しかし、信仰を貫き、自分たち家族を捨ててまで死を選んだ父の信仰は、著者の信仰に迷いを生じさせます。そして、父へのうらみと孤独に苦しんだ彼はこう述べます。私は「私の父の神さま」を捨てようと決心しました、と。
しかし著者は、「父の神さま」に立ち戻ります。
弱さを自覚しつつ、神のことばを守り、神のことばに生きるのがキリスト信仰です。著者は日本のキリスト者にこう語りかけてくれています。
「みなさんは一億三千万人の人口の中で選ばれた一粒の種です。みなさんがいるからこそ、日本のキリスト教には未来があります。イエスさまを信じることがどんなに難しくても、神さまがみなさんに与えてくださった使命を拒むことはできません」(一二五頁)
本書は、キリスト者の使命が、神のことばを守り、神のことばに忠実に従って生きることであると教えてくれます。