ブック・レビュー 『苦しみを通して神に近づく』

『苦しみを通して神に近づく』
坂本 献一
保守バプテスト同盟 主事

苦しむ者の歩みが主イエスの道と重なり合う

 私は、教会の中にも、苦しむ者たちが他のキリスト者たちの言動によってさらに深い傷を受ける「二次被害」が存在しているように思います。「善意」からの、しかし配慮のない安易な慰めの言葉を浴び、傷ついた心がさらに深く痛手を負うのです。

 「なぜ、そんな言葉を言えるの。あなたに何がわかるの」と憤りながらも、苦しむ者たちは黙っています。それはその言葉があまりにも信仰的な装いをしているとともに、この「正統的メッセージ」にとって代わるメッセージがどこからも聞こえてこないからです。しかし、私は本書のうちに、その「とって代わるメッセージ」を聞くような気がしました。

 本書では、詩篇七十七篇に展開される詩篇作者の「叫び」「嘆き」「心への語りかけ」「思い巡らし」が、苦しむ者たちの歩みと重なり合わされます。出エジプトやホロコーストに代表されるユダヤの民の歩み。愛する者を失った現代の家庭の物語。それらの響き合いが聞こえてきます。そして、その響きに著者自身の経験が響き合います。

 重要なことは、この響き合い、苦しむ者の歩みが、神ご自身の歩み、主イエスの道と重なり合うことです。本書はそれを明確にさし示しています。ひとり子を与えて下さった父の悲しみ。十字架への道を歩み続けた主の御姿。自分の歩みがキリストの道と重なることがどんなに深い慰めであるか。苦しんだ経験のある者は、それをよく知っています。

 この書は一つひとつの文章をゆっくりと、ふだんの三倍くらいの時間をかけて味わいながら読んでみるといいと思います。すると、詩篇作者と主との対話、詩篇作者と著者との対話、そして、著者と主との対話を発見します。それは本書を読む「私」を、主との対話の世界に導いて行きます。その意味で本書は「主との親密な語らいの世界」へと私たちを導く、新しい「デボーション」の手引きともなっています。