ブック・レビュー 『生きていく力』

『生きていく力』
平山 正実
北千住旭クリニック院長 精神科医

「生きていく力」を求めるすべての人に

 著者は、本書の内容を「生、死、生命、いのち、心、魂、和解、信仰、癒しなどについて、私が患者さんやご家族から学んだことをもとにして、拙い私自身の洞察をくわえたもの」と述べている。教会や学校で語られた原稿をまとめたものであり、一読して著者の深い信仰と鋭い科学精神に基づく観察力に、読者の一人として感銘を覚えた。

 柏木氏は、本書の題名を次のように説明している。すなわち長年にわたる精神科医とホスピス医としての臨床経験から言えることは、うつ病など精神病にかかり自殺する人は「生きていく力」がなくなることであり、がんなど身体疾患によって死んでいく人は、「生きる力」がなくなるのだと述べている。そして、「生きていく力」は「いのち」に起因し、「生きる力」は「生命」に由来するという。このように対比されてみるとなるほどと納得させられる。

 また、著者は「いのち」は無限なものとつながっており、しかも開放的で主観的なものであるのに対して、「生命」は、有限であり、閉鎖的であり、客観的であるという。そして、「いのち」は、主観性や霊性の本質でありスピリチャリティと濃いかかわり合いがあり、本書は、とくにこの「いのち」とスピリチャリティとの関連性について、深い洞察を与えてくれる。とくに、「いのち」の源泉であるスピリチャリティを存在の意味とか価値観の問題としてとらえている点は注目される。

 また、川柳を好む著者は危機に直面した際のユーモアの価値について言及している。ユーモアは、心のゆとりのようなものであり、危機に際し状況や自己から一定の距離を置き物事を客観化する重要な働きをもっていることを教えられた。

 いずれにしても、「生きていく力」を求めるすべての人が、ぜひ本書を手にとって読まれることをお薦めする。きっと学ぶことが多いと思う。