ブック・レビュー 『とっておきのさんびか物語』

『とっておきのさんびか物語』
久米小百合
教会音楽家

讃美歌の安らぎの秘密がここにある

 音楽は巷に反乱しています。誰かのケイタイから、駅のホームから、コンピュータゲームから、そしてテレビやカーステレオから。これらの音の洪水の中で私たちは果たして心地よさを味わっているでしょうか。必ずしもそうとは言えません。逆に日常の騒がしさから逃れるために、癒しの音楽を求める人も増えているようです。

 讃美歌は時代を超えて愛される究極の癒しの音楽ではないでしょうか。その秘密はこの本を読めば深く理解できると思います。それは長く歌い継がれてきた有名な讃美歌の著作者たちにスポットライトをあてているからです。

 神への賛美が単なる技巧による作り物か、真実の信仰にあふれている誠実なものか、私たちには見破れないことがあります。しかし当然のことですが神ご自身にはすべてが明白です。ここで取り上げられている愛すべき歌は、本物だと思います。

 一人ひとりの作者の人生をのぞいてみてください。今でこそ有名な讃美歌ですが、流行りものを創ろうとした人は一人もいません。信仰からあふれ出る詞を書き取ったに過ぎないのです。讃美歌のシンプルな美しさ、力強さ、そして安らぎの秘密がそこにあるのではないでしょうか。

 物語は小さな子どもたちに、母親や日曜学校の先生方が読み聞かせるのにちょうど良いボリュームとなっています。それぞれの作者の幼いころから物語は綴られ、その波瀾万丈の人生に興味を覚えることでしょう。小さな子どもが、他者を思いやることのできる成熟した大人になるために、「愛」を体感できるような家庭が必要であることもこの本は教えてくれます。

 虐待、イジメ、家庭内暴力など手のつけようがないほどボロボロになった時代でも、アメイジンググレース! 驚くばかりの恵みは、歌と共にやって来ることを多くの方に知っていただきたいと願っています。(嬉しいことに楽譜付きです。)