ブック・レビュー 『いのちが傷つくとき』

いのちが傷つくとき
清水 武夫
日本長老教会 玉川上水キリスト教会 牧師

確かな手がかりと方向性を与えてくれる

 フィリップ・ヤンシーの著作は、斬新な視点から物事をとらえ、何かを気づかせてくれます。本書もまた例外ではありません。

 本書は小さな冊子ですが、五つの部分に別れていて、それぞれの部分で、「なぜ神は痛みをつくられたのか」、「神の力を疑うとき」、「神が不公平に思われるとき」、「神は心にかけてくださっているのだろうか」、「神の愛を感じる必要があるとき」という苦しみの中にある人々が感じる典型的な問題が取り上げられています。

 すでに彼の著作に接しておられる方や苦しみの問題と取り組んでこられた方は、ここには結論的なことが記されているということに気づくはずです。苦しみの中にある方が感じる問題は百人百様です。本書は、その結論的なことをそのまま受け入れさせるというより、一人一人に独自の問題と取り組むための、確かな手がかりと方向性を与えてくれるものであると言うべきでしょう。

 その主旨を生かすためにも、恵みによって神の子どもとされている私たちのうちに因果応報的な発想が潜んでいて、普段は気づかないのに苦しみの時に顔を出してきて、主の恵みを見失わせ、主の愛を疑ったり、自分を責めたり、人をさばいたりするという問題が取り上げられていたならという思いがします。本書で取り上げられているさまざまな問題の根本には、この因果応報的な発想の問題が潜んでいると思われます。

 最後に特記すべきことですが、最後の部分に記されているマーサの事例は心を揺さぶります。父なる神さまの右の座に着座しておられるあわれみ深い大祭司は、地上にあるキリストのからだをとおして、ご自身をあかしされるということが、生き生きと映し出されています。これは、私たちへの重大なチャレンジでもあります。このことに触れて、目を開かれるだけでも、本書を読む価値は十分あると言っていいでしょう。