ビデオ 試写室◆ ビデオ評 91 「きみは愛されるため生まれた
fromイ・チソン」

「きみは愛されるため生まれたfromイ・チソン」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

なぜこんなに美しいんだろう?

 「罪人は、美しいから愛されるのではない。愛されているから、美しいのだ。」(マルチン・ルター)

 見終わって、この言葉が心に浮かんできました。

 収録されているのは、松本優香の歌う「きみは愛されるため生まれた」、再現ドラマ「心の中の鏡」、そして目玉が、昨年12月に行われた淀橋教会でのイ・チソンさんの講演です。

 明るく、美しく、子どもが大好きで、教師になる夢を持つ、クリスチャンの女子大生。イ・チソンさんは、そんな人でした。夏休みの一日、大学の図書館で勉強。夕陽が落ち、家路に着こうしていました。一方そのころ、酒に酔って車に乗る一人の人がいました。何の関係もないこの二人が、しばらく後にお互いの人生を一瞬横切ることになります。ほんの一瞬の出来事でした。兄の車で帰る途中のチソンさんは、酒酔い運転の人が起こした事故に巻き込まれ、全身の半分の皮膚がなくなってしまうという大やけどを負ってしまったのです。美しい顔も失いました。

 「万が一助かったとしても、人間の姿には戻れません。社会で生きることは考えないように」という医師の言葉に、愕然とする家族。再現ドラマは痛いほどに表現します。「でも、このお医者さんの言葉は、真理ではありませんでしたね!」と話すチソンさんの笑顔。1000人ほどの大会衆を前に、生きてることのうれしさ、絶望している人への希望を、ユーモラスに語る彼女。「人間の姿には戻れない」と宣告された彼女が、最高に人間らしい姿で語ってます。「社会で生きることは考えられない」と言われた彼女が、サイン会をしてます。

 人間の想像力は、何と貧しいことでしょうか?「こうなったら、もう治らない」「こうなったら、もう希望はない」「こうなったら、もう…」。こんな言葉を何度聞いたことでしょうか!でもチソンさんの家族は、医師の言葉よりも神の言葉を信じ、彼女の中に与えられている力を信じました。否定的な宣言は見事にくつがえされました。

 実は私も聴衆のひとりでしたが、着いたときにはもうロビーまで一杯で、二階の遠くから見ていたので、チソンさんの顔はあまり見えませんでした。今映像を見て驚きました。アップになればなるほど、美しいのです。心が休まる美しさ。「なんだ!きれいじゃないか」。そのとき、心に浮かんできました。「愛されているから、美しいのだ」。 彼女は、日に日に美しくなっていくようです。

 講演は、今苦しむ人へのメッセージで結ばれました。私にとっても深い慰めでした。死を考えている人が「生き直そう」と思う、そんなことが起こる予感がします。