ビデオ 試写室◆ ビデオ評 84 「クオ・ヴァディス」

「クオ・ヴァディス」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

ノーベル賞文学の新たなる映画化

 ローマ帝国の全盛時代、皇帝は歴史に残る暴君ネロ。帝国はぜいたくと堕落の極みにありました。そこで空前のキリスト教徒迫害が起こったのです。信者たちは競技場に連れて行かれ、ライオンと戦わされました。ライオンに食いちぎられて行くクリスチャンたちを見て楽しむ観衆たち。さらに他のクリスチャンたちは、公衆の面前で十字架につけられて行きます。彼らは一体、何の罪でこのような目にあったのでしょうか? 罪状は「放火」でした。ネロ皇帝の会議で、「犯人はキリスト教徒に決まった」のです。本当の犯人はネロ自身でした。

 芸術家を気取るネロは、ある日「トロイの大火」の詩を作り、側近たちの前で演じました。ところが側近の1人から「迫力がない」という評価を受けたネロは、「それは、本当の大火事を見てないからだ」と言って、ローマの街に火を放ったのです。そして民衆の暴動を恐れた彼は、「放火の犯人はキリスト教徒だ」と振れまわりました。こうして、クリスチャンたちは、放火魔の汚名を着せられ、虐殺されたのです。

 なんと恐ろしいことでしょうか! ネロの次の計画は、使徒ペテロとパウロをとらえて、処刑することでした。このことを察知した信者たちはペテロに進言します。「あなたはみことばを伝えなければなりません。どうか逃げてください」。ペテロは彼らの言葉に従って、逃亡の旅を始めます。しかしその途中、復活のイエスが自分と反対の方向に歩いて行かれる「姿」を見ます。彼は尋ねます。「主よ、どこへ行かれるのですか(クオ・ヴァディス)?」 復活のイエスは答えられます。「お前がわたしの民を見捨てるなら、わたしがローマへ行って、もう一度十字架にかかる」。

 ペテロはこの言葉に心打たれ、道を引き返します。供の者が、「先生、どこへ行くのですか(クオ・ヴァディス)?」と聞くと、彼は答えます。「ローマへ戻るのだ!」

 こうしてペテロはローマで殉教したと、伝えられています。それも逆さ十字架で。

 この映画の原作は、ポーランドのヘンリク・シェンケヴィッチが書いた同名小説で、ノーベル文学賞を受けました。それが1951年、ロバート・テイラー、デボラ・カー主演で映画化され、同年のアカデミー賞8部門にノミネートされています。そして2001年、TVシリーズとして原作者の母国ポーランドとアメリカの合作でリメイクされました。それがDVD化されたのが、この作品です。

 ローマの若き将校マルクスとクリスチャンの少女リギアの恋。それから、皇帝ネロの心の変遷。そしてキリストの心に生きる初代教会の姿。これら3つの話がさまざまに交錯して、マルクスはクリスチャンとなり、権力者に立ち向かって行きます。「聖書以外のクリスチャンの必読書」というと、いつの時代も、『天路歴呈』と『クオ・ヴァディス』は必ず入っていました。信仰の自由が脅かされている今、この作品が強い励ましを与えてくれるように、願わずにはいられません。