ビデオ 試写室◆ ビデオ評 75 「十字架と飛び出しナイフ」8ヶ国語吹替バージョン

「十字架と飛び出しナイフ」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

 「十字架は、飛び出しナイフよりも強いのです」。この最後の言葉が、この映画のすべてを語っています。デヴィッド・ウィルカーソン『十字架と飛び出しナイフ』の映画化です。

 ウィルカーソン牧師は、雑誌でスラム街で荒れる少年たちの記事を読んで、心に神の愛が迫り、ペンシルベニヤからニューヨークへと出かけて行きました。

 最初に会った少年の一人、リトル・ジョジョは言いました。「あんたみたいなお金持ちが、神が生活を変えてくれると説教するのは簡単だよ。いい服を着て、そんな新しい靴を履いてるんだからな。俺たちよく見ろよ!」この言葉を聞いた瞬間に、彼は靴を脱いで、あげてしまいます。汚い街を裸足で歩き回る牧師の姿に、キリストの姿が重なります。

 「俺に近づいたら殺してやる!」「殺してもいいよ。君が僕をこま切れにして切り刻んで通りにばらまいても、こま切れの一片一片が君を愛するよ」。親の愛情を全く受けずに育ったニッキーが聞いた、ウィルカーソン牧師の言葉でした。ヘロイン中毒のローザ、殺されたミンゴ、その妹アンジェラ、マウマウ団のボスのイスラエル、みんな孤独でした。

 伝道会を決闘の場に変えてしまおうとするマウマウ団とビショップ団。しかし、牧師は彼らに献金の奉仕を頼みました。しかも、集め終わったら、ホールの外の通路を通ってステージまで持って来るように、というのです。持ち逃げされることを覚悟の上で、彼らを信じたのです。生まれて初めて自分を信じてくれる人に出会ったニッキーは、初めて心を開いて説教を聞き、その場で回心。決闘を止め、仲間たちに訴えます。「もう殺したり傷つけたりは沢山だ!」 のちに牧師になった彼の証しが、特典映像として収録されています。

 DVDには、8ヶ国語の吹き替え音声が収録されています。韓国語版で見るとすごい迫力でした。また、英語の字幕が入っています。英語字幕で英語版を見たり、英語字幕で日本語版を見ると、とてもいい勉強になります。それだけでなく、日本語版では十分に表現されていない感動的な言葉をいくつも発見します。さらにドラマの中に挿入されている歌がいいです。歌詞を映し出して聴くと、持って行き所のない淋しさや、麻薬に頼る若者の叫びが伝わってきます。

 今の日本では、7割以上の中高生が武器を持ち歩いてるそうです。ある少年は「ナイフを持つと強くなったような気がする」と言います。こういう若者に、「十字架は飛び出しナイフよりも強いよ」と、この映画によって伝えたいと、心から思います。