ビデオ 試写室◆ ビデオ評 43 『十字架と飛び出しナイフ』

十字架と飛び出しナイフ
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

ニューヨークの裏通りでの奇跡!今こそ、日本の若者に見せたい映画

 数人の少年たちがホームレスの人を殺す、同級生を滅多打ちにする、というような事件が相次いで起こっています。シンナー中毒、覚せい剤中毒が、十代を蝕んでいます。恐ろしい時代になってしまいました。

 この映画のつくられた1970年代には、まだ日本はそんな状況ではありませんでした。ですからリアルタイムで見たときは、もう一つ現実感が弱かったという記憶があります。でも「イギリスの100年前の新聞を見ると、今の日本にそっくりだ」という話をラジオで聞きました。日本はいい意味でも悪い意味でも欧米を追いかけています。そして改めて今見て、とても引きつけられました。当時は大げさに感じられた台詞も、今なら心にくい込んできます。

 『ウエストサイド・ストーリー』と同じ、ニューヨークのハーレムが舞台です。やはりミュージカルタッチで描かれています。主演はパット・ブーン。50年代後半から60年代にかけてエルヴィス・プレスリーのライバルと言われ、今も活躍中の大歌手です。熱心なクリスチャンとしても知られ、「バーナディーン」「四月の恋」など十数本の映画に主演しています。ちょうど彼の信仰がリバイバルされた70年代に、この映画は撮られました。

 ハーレムのユダヤ人街で血なまぐさい抗争を続けるマウマウ団とビショップ団という実在の少年犯罪グループの中に、一人の田舎の牧師が飛び込んできます。彼はデビッド・ウイルカーソン。頼りない感じの男で、震えていました。でも、何とかしてそこにいる少年たちに、彼らが神様に愛されていることを伝えようとして、勇気をふりしぼって近づいていきます。ヘロイン中毒の少女のために徹夜で祈り、マウマウ団の少年の部屋を訪ねて追い出されます。おどされ、どなられ、車を壊され、お金を取られ、殺されそうになって、「私はこわい」と言いながらも、祈って出て行くのです。そのうち協力してくれる教会ができ、ニューヨーク警察の警部も手を貸してくるようになります。また少年たちが彼の握手に応じるようになります。しかし、ニッキー・クルツだけは、狂ったようにこの牧師を憎んでいました。憎まれれば憎まれるほど、牧師は愛します。「僕を殺してもいい。それでも神様は君を愛してる!」

 今、実際にその少年たちの多くが牧師になっていると聞いて、主の力強さに圧倒されます。

 『親分はイエス様』の30年も前に、このような映画があったのです。今それが、ようやくビデオ化されました。「金曜ロードショー」や「火曜サスペンス」のかわりに、だまされたと思って、鑑賞してみてください。終わったあとまで、じーんと心が温まります。