ビデオ 試写室◆ ビデオ評 101 イエス伝映画の新しい試み、2本
 3/20 DVD化決定

「マタイの福音書」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

 イエス・キリストほど、たくさんの絵になり、歌になり、詩になり、劇、小説、映画になった人はいません。でも、同じ主イエスが、ルオーとルーベンスでは別人に見えます。それぞれが、彼の違った面を見ているからです。聖書にも4つの福音書があり、それぞれのイエス様を描いています。翻訳の違いによっても、読む者に迫るイエス像は違ってきます。さて、これからお互いの心にいるイエス様が、もっと豊かに見えてくることを願って、この春、ライフ企画でDVD化される2作品、福音書を一字一句変えないで忠実に描くリガード・バンデンブルグ監督の『マタイの福音書』と、時にはSFXを使ったシーンも出てくるロジャー・ヤング監督『ムービー・オブ・ジーザス』の「観比べ」をしてみましょう。

 1.普段のイエス……『マタイによる福音書』では、いつも優しい微笑を浮かべている、「柔和な愛の人」です。一方『ムービー・オブ・ジーザス』の方は、遊び心豊かな、「今を楽しんで生きる人」です。

 2.愛の人イエス……『マタイに福音書』の、「ツァラアト(重い皮膚病)」の人の顔を見たときのイエスは、その苦痛を吸い取るような哀しいまなざしで、彼を見つめます。「つらかったでしょう」とささやいているように。そして丁寧にその変形した顔を両手で包みます。癒された彼が飛び上がって喜ぶと、イエスも彼と抱き合って、地べたを転げまわって歓びます。「喜ぶ者といっしょに喜び、泣く者といっしょに泣」く主の姿です。『ムービー・オブ・ジーザス』では、「敵への愛」が描かれます。憎いローマ兵に剣を向ける熱心党員を、必死に止めるイエス。殺されたローマ兵に涙する主。「敵を愛しなさい」と教えられたイエス様には、十分あり得る想像です。

 3.受難週のイエス……『マタイの福音書』の晩餐シーン。「わたしを裏切る者がいる」。ユダが「まさか私ではないでしょう」というと、ユダを抱きしめ、涙を貯めて、「いや…あなただ…」と言って手を離さないイエス。その手を振り払って出て行くユダ。謎の箇所が解き明かされた感じです。『ムービー・オブ・ジーザス』の、十字架の前の夜。母のマリアの膝の上で、恐怖と悲しみで震えているイエスの背中!私と同じ人間の姿です。

 4.ラストシーン……『マタイの福音書』の復活の主イエスは、あなたのほうを振り返って、「おいで」と手招きをしてくれます。『ムービー・オブ・ジーザス』の復活の主は、ジャケット姿で現代に現れ、子供たちと一緒に歩いて行きます。いろんな皮膚の色の子が、皆笑っています。

 同じイエス伝でも、違う作品を観れば観るほどに新たな感動と広がりが生まれ、そして聖書に戻ったときに新鮮なイマジネーションと力をいただくのではないでしょうか。