これって何が論点?! 第13回 「この教科書を使いなさい」

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

実は、選挙に行ったことがありません。国会議員は、「私たちは選挙で選ばれた国民の代表!」と言っているけど、どうやって選ばれているんですか。日本の多くの人は、自民党支持者なのですか…?

Q なぜ、投票率は年々下がっているの?
選挙は、国民が主権者として政治に参加する最大の場ですが、投票率は年々下がっています。衆議院議員総選挙で見ると、一九九〇年までは投票率七〇%前後で推移していましたが、一九九四年に小選挙区制が始まってから低下し、二〇一二年には戦後最低の五九・三二%を記録します。特に若年層の落ち込みがひどく、二十代は五七・七六%から三七・八九%にまで下がっています。その理由に、①今の選挙制度(小選挙区制)に民意を反映しているとはいえない重大な問題点があること。②選挙の争点がわかりにくく、選挙期間と、実際に国会で審議されるテーマが食い違っていることがあるのではないかと思います。若者も決して政治に無関心な人ばかりではないはずなのに、何をやっても変わらないという〝失望感”が、選挙離れの原因になっているようです。

Q 現在の選挙制度の大きな問題点とは。
第一の問題は小選挙区制が持つ重大な欠点、カラクリです。一九九四年、公職選挙法改正により、衆議院議員総選挙は中選挙区制を廃止し、小選挙区・比例代表並列制へとかわりました(一九九六年、第四十一回以降)。衆議院議員総選挙制度では、小選挙区選挙で三百議席、比例代表選挙で百八十議席を選び、小選挙区が大きな比率を占めます。
中選挙区や比例区では票の獲得数に比例して議席が決まるのに対し、小選挙区は、区で勝った一人が議席を独占する一人一区、いわば「勝者総取り」の制度のため、得票率と議席獲得率が乖離します。
たとえば、二〇一二年十二月の第四十六回衆議院議員総選挙で、自民党は小選挙区三百議席中、二三七議席(七九%)を獲得しましたが、得票率は四三%です(全有権者数に対する同党の得票率は、小選挙区で二五%にすぎない)。つまり、自民党は約四割の得票で、約八割もの議席を獲得したことになります。これは以前からも見られ、郵政民営化が争点となって小泉政権が圧勝した二〇〇五年の総選挙でも、自民党は約五割の得票で約七割の議席を得ており、民主党が政権交代した二〇〇九年の総選挙でも、民主党は約五割の得票で約七割の議席を獲得しています。
小選挙区制は、得票率と議席獲得率の乖離が明らかに大きく、多くの「死票」が生まれます。二〇一二年衆議院総選挙では、全国の小選挙区で約三千七百三十万票(五六%)もの死票が出ました。死票はおもに、少数派政党に投票した票に及びます。どのような選挙制度でもある程度の死票は生じますが、特に小選挙区制は、大きな政党に有利、小さな政党に不利な制度なのです。それでいて、参議院議員通常選挙では、人口密集の低い農村部は小選挙区(一人区三十一選挙区)、都心部では中選挙区(東京五人区、大阪・神奈川四人区、三人区が三選挙区、二人区が十選挙区)と中小選挙区混合にしています。地方は過疎化、高齢化が進んでいるため公共事業に依存する地域が多く、農村部に基盤を置く自民党が圧倒的に有利です。反面、都市部に基盤を置く野党に有利な地域では、中選挙区制で一区複数当選とし、自民党も議席を獲得し得る仕組みです。このような不公平な選挙制度で、多数派の自民党が優位な立場にあり続けてきたといってもよいでしょう。

Q なぜ選挙の争点がわかりにくいのか。
政治には多くの課題や問題点があり、同じ政党内でも、議員それぞれの考えは千差万別なはずです。しかし現在は、おもに自民党と民主党の二大政党のくくりで争われ、政党主導になっています。そのため有権者は、自分の意見を反映する議員を見つけ、バラエティーに富む選択をすることができにくくなっています。また、同じ民主党政権でも、鳩山、菅、野田政権とかわるに従い、自民党と区別がなくなってしまった印象を多くの方が持ったことでしょう。二大政党の価値観と政策が明確に区別されていないことも、選挙の争点を分かりづらくさせている点と思われます。
同じ党内でも、与党と野党の間であっても、画一の考えではなく、異なる意見を出し合えることが重要なことです。

推薦図書
石川真澄、広瀬道貞 共著『自民党 ―長期支配の構造』(岩波書店、1989年)
石川真澄著『小選挙区制と政治改革 ―問題点は何か』(岩波ブックレット319号、1993年)