『君への誓い』緊急出版!!
記憶を失った愛する妻へ ◆レトロな恋のリアルな現実

「君への誓い」
NORIKO
漫画家、イラストレーター

もし、自分が記憶を失ってしまったら、どうなるのだろう?
例えば、私が絵描きを再開してからの約七年間の記憶をなくしたとして。同人誌のバックナンバーをパラパラとめくりながら「うそ! 私がこんなオタク漫画描くなんて」と狼狽したり、書棚の奥からコミケの申込書を見つけ出して「まさか……東京ビッグサイト目指してた!?」と脱力したりするのだろうか……。
だが、現実は面白おかしくはいかない。本書につづられているのは「夫に出会ってからの記憶を交通事故で失ってしまった妻」と「彼女を支える夫」の葛藤の日々だ。
第一章は夫妻の出会いのエピソードから始まる。一九九二年、アメリカ。ニューメキシコ州の大学で野球チームの監督をしていたキムは、ユニホームの注文がきっかけで、クリキットという女性と知り合う。電話でのやりとりで好感をもった二人は、やがて「お互いを知るための会話」をするようになる。クリキットの勤めるスポーツ用品店はカリフォルニア州にあるため、二人は遠距離恋愛。まだEメールなどなかったころの恋愛だ。一時間以上の長電話で電話代がかさんだとか、便せん十枚以上の手紙とか……。
今から二十年前の二人の恋はレトロで、のんびりしていて、若い世代にとっては物語の中の出来事のように思えるかもしれない。彼らのプロポーズや結婚式も、まるで映画のようだ。
それだけに第二章以降の事故の描写は、キムの爽やかな語り口をもってしても、リアルでつらい。
「はりめぐらされていた神の配慮」―事故直後からの多くの人たちの助けと祈り―により、クリキットは奇蹟的に一命をとりとめる。だが彼女は記憶を失っただけでなく、性格も以前とは変わってしまっていた。
「私にあれしろ、これしろって言わないでよ! 放っといて!」彼女はリハビリを励ます夫キムに対して金切り声を上げる。そんな妻を、自らも事故の後遺症に苦しむ中、忍耐強く支える夫。込み上げる不安、怒り、混乱……。膨大な医療費の請求以上に彼を悩ますのは、妻の今後のことだ。「妻が二度と僕を思い出さず、僕が結婚した女性にも戻らないとしたら、それはある意味では死よりも恐ろしい……」
本書を読み進める中で、キムがそうであったように、私たちもまたクリキットが事故後も信仰を失っていなかったことに励まされるだろう。昏睡状態からリハビリを始めた彼女は言う。
「……主はいつも、私を教えてくださる。神様は私を神の懐の中で守っていてくださるから、私は安全。神様が私の人生に働きかけてくださるのを体験したいと思う。神様は、ご自身がいいと思われるときに、きっと私を用いてくださると信じている」
クリキットは記憶を取り戻すのだろうか。そして、二人の関係は……。
事故の後遺症などないのに、なぜかときどき夫に暴言(?)を吐いてしまう私。聖書カバーに挟んだままの「結婚の誓約」のコピーを、久々に取り出してみようかと思う。

『君への誓い』 6月発売!
キム・カーペンター、クリキット・カーペンター 共著
結城絵美子 訳 四六判 1,365円