『たいせつなきみ』シリーズ10周年 シンプルに、じんわりと神の愛を伝える

厳しい競争社会の日本で大人もいやす絵本に

 アメリカで、六冊シリーズの第一作目『たいせつなきみ』が登場したのは一九九七年のこと。牧師であるマックス・ルケード師によって、ヨーロッパに古くから伝わる民話をもとに創作されました。

 主人公の人形パンチネロは、周囲から、だめ人形と評価され、すっかり元気をなくしていました。しかし、自分を作った彫刻家から「わたしは、おまえのことを大切だと思っている」と伝えられ、自信を取り戻します。

 この絵本は世界各国の言葉に訳され、シリーズ全体で約七百万冊が発行されました。

 日本に登場したのは一九九八年、バブル景気崩壊後に競争原理と自己責任のルールが広まり、人を勝ちと負けに分ける傾向が強まった頃。そんな時代のなかで、一人ひとりの人間が、たいせつな存在なのだというメッセージを静かに訴えたこの絵本は、多くの人々の心をとらえました。

 アメリカでの中心的な読者は子どもなのですが、日本では子どもだけでなく、大人からも「心がいやされました」という反響が多く寄せられています。

日本へ紹介した翻訳者と本の不思議な出会い

 この本が日本で発行される架け橋となったのが『たいせつなきみ』を翻訳したホーバード豊子さん。一九九七年、当時住んでいたアメリカ・アーカンソー州にあった書店で、この本に目が留まったと振り返ります。

 「原題の『You Are Special』というタイトルにインパクトがあり、神様から私への語りかけのようでした。店内にあるソファーに座って、主人が読んでくれたのですが、お話を聞き終わると、神様のご愛のメッセージが心にしみ込むようで涙が流れました」

 その後、ホーバードさんは日本の出版社(いのちのことば社)にこの本を紹介し、自ら翻訳も手がけることに。

 「神様は、普通の主婦の私をご自分のご栄光のために用いられたお方です。一人ひとりに神様からの尊い賜物が与えられています。それを用いてただ神様のご愛にお応えし、お役に立ちたいという純粋な気持ちがあれば、神様はきっと不思議な形で道を開いて、仕える喜びをくださると信じます」と話す。

 闇がますます深まる現代の世界にあっても、聖書に示された神様のメッセージは様々な形で表されています。十周年を迎えた『たいせつなきみ』は、確かな神の愛をじんわりと伝える絵本として、これからも読み継がれていくことでしょう。