自殺は止められる 第5回 自殺の連鎖を断ち切ろう

碓井真史
心理学博士

自殺は伝染します。それは恐ろしい伝染病のように、次々と広がります。そして伝染病のように、必要な方策をとれば、伝染を最小限にくい止めることもできます。

大きな自殺報道は、次の自殺を生み、さらに過熱した報道が自殺連鎖を作り出します。特に影響を受けやすいのは若者です。また大きな自殺報道の後には、事故も増えます。明確な自殺ではないものの、死んでも良いと感じている人が自殺報道に影響を受けて、事故を起こすと考えられています。

たとえば、子どもが「ボクはいじめられていた」という遺書を残して自殺をしたとします。マスコミが殺到し、「いじめ自殺」と命名して大きく報道します。悲しい音楽を流しながら、遺書が何度も朗読されます。ここが自殺の場所だと映像付で繰り返し報道され、自殺の方法も詳しく具体的に報道します。さらに、いじめっ子は補導され、まるで物語の最後の「めでたし、めでたし」のように、話をしめくくります。

これは自殺の連鎖を生みかねない大変危険な報道です。また有名人の自殺も同様です。有名な人ほど人々に大きな衝撃を与えます。ファンであれば、なおさらでしょう。

自殺連鎖につながる危険な自殺報道は、過剰でセンセーショナルな報道、自殺を美化する報道、自殺の場所や方法の詳しい紹介、そして自殺理由の単純化です。このような報道は、自殺者の身近な人、似ている人、同じ理由で悩んでいる人の自殺の危険性を特に高めます。マスコミによる大報道がなくても、ごく身近で自殺者が出れば、うわさ話などで情報が入り、危険性は同じように高まります。

世の中では、複雑で多様な出来事が無数に起きています。私たちは、その中から、ある出来事に注目し、理解しやすい「ストーリー」を作りあげます。自殺の理由は、複雑に絡み合っています。遺書があるときでさえ、本当の自殺動機は実は良くわからないのです。しかし、マスメディアも私たちも、わかりやすい話を好みます。

善良な子がいじめられていた。その結果、生徒は死を選んだ。「いじめ自殺」である。この場所で、こういう方法で遺書を残して死んだ。そして、いじめっ子は補導され、悲しみの涙の中、感動的な葬儀が行われた、といったストーリーです。

しかし実際の人間行動の裏には、複雑な背景があるのです。自殺理由の単純化は、同じ動機の自殺連鎖を生みます。自殺方法を詳しく報道するのも、自殺予備軍に自殺方法を教えることになります。そして、あたかも自殺した結果として良いことが起きたと解釈できるような報道は、悩んでいる人の自殺への思いを強めてしまいます。

これまでも、ある団地やJR線が自殺の「名所」となってしまい、自殺が多発したことがあります。「いじめ自殺」と呼ばれる自殺が続いたこともありました。芸能人の自殺の後に、後追い自殺のように若者の自殺が増加したこともあります。

自殺によって生徒達が動揺している場合に、校長先生が全校集会で命の大切さを語ることなどがあります。しかし本当は、生徒一人ひとりの顔を見て話ができるクラス担任の働きが重要です。不安がっている生徒や、日ごろ悩みを持っている生徒に、個別に声をかけることが必要です。

近年、マスメディアも配慮し始め、ニュース番組や新聞では、センセーショナルな報道は少なくなってきました。また大きな自殺報道には自殺予防に関する情報も載るようになってきました。自殺予防効果のある報道も行われています。ただし、テレビも番組によっては取り上げ方が違いますし、メディアによっては過激な報道がされる場合もあります。

そして、今大きな問題となっているのが、インターネットです。無責任な情報の垂れ流しが、自殺の連鎖を生んでいます。この数年、インターネットで仲間を集めるネット集団自殺が問題になっています。死にたい気持ちを語っているだけなら、むしろ自殺予防効果があるとも言えますが、誰も自殺を止める者がいない中で話が具体的になっていくことは、大変危険です。

昨年は、硫化水素自殺が急増しました。インターネット上の一部の掲示板やブログは、まるでお祭り騒ぎのように硫化水素自殺の話題で異常な盛り上がりを見せ、詳細で具体的な自殺方法が大量に流され続けました。自殺をあおるような発言も数多く見られました。インターネットでも、危険な自殺サイトではなく、自殺予防サイトの増加が求められています。

普段は元気に見える人々も含めて、私たちの心は揺れています。何かの理由で心が弱くなったときに大きな自殺報道に触れると、自殺への危険性が高まってしまいます。事実の報道は大切です。情報も必要です。問題は、どのように伝えるかではないでしょうか。マスメディアによる報道、インターネット上の個人発信の情報、私たちのうわさ話。その内容が、自殺の連鎖を生むこともあれば、命への希望を生みだすこともあるでしょう。あなたの愛と知恵による一言が、自殺予防になるのです。

「穏やかな舌はいのちの木。偽りの舌はたましいの破滅」(箴言一五章四節)

 

自殺は止められる 最終回 愛する人の自殺