これって何が論点?! 第22回 原発再稼働問題はどうなった?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

甚大な被害を引き起こした東京電力福島第一原発事故は、安全神話で覆い隠してきた原発の危険性を白日の下にさらし、世界各国にもショックを与えました。日本でも市民から反原発の世論が強まり、若者や主婦層なども反原発デモに参加。昨年五月の中央調査社の原発再稼働意識調査でも依然として、反対五六・九%、賛成一八・四%です。

Q でも廃炉ではなく、再稼働のニュースを聞きますが。

現在、すべての原発が定期検査入りし、一時稼働した大飯原発も含めて全原発が停止中です。ところが、脱原発の民意はよそに、日本政府は原子力を組み入れたエネルギー政策を変えず、原発再稼働を前提に準備を着々と進めています。以前は、原発を推進する「資源エネルギー庁」と、規制を担当する「原子力安全・保安院」が同じ経済産業省内の組織だったため、馴れ合い人事との批判をかわそうと、二〇一二年、環境省の外局に「原子力規制委員会」を新設。しかし、初代委員長の田中俊一氏は元日本原子力学会会長で、結局は“原子力村”内部の人事と批判されています。
原子力規制委員会は、二〇一三年に新規制基準を定め、同年七月からそれに基づいた再稼働申請が始まり、現在まで十五原発二十四基が再稼働を申請しています。同規制委員会が「規制基準に適合した」と審査書案を了承したのは、昨年七月に九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)、昨年十二月に関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)、今年五月二十日に四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の三か所です。五月二十七日、川内原発は規制委員会から全国初となるすべての許認可を受け、1号機は七月、2号機は九月に再稼働の予定です。今年二〇一五年はこのまま行けば再稼働元年になるおそれがあります。

Q 新規制基準で、安全性は高まったのですか?

九州電力川内原発の安全審査の審査書案を了承した昨年七月十六日、原子力規制委員会の田中俊一委員長は次のように発言し、唖然とさせました。「安全性についていうものでない。新基準に適合していると言っている」「基準の適合性をみたのであって、安全だとは私は申しません」。これは、安倍首相の「世界で最も厳しい安全基準にのっとり、再稼働を進めたい」という発言とは対照的なものでした。
実際、「新基準」は、①避難計画は審査せず、自治体に丸投げ状態(米国では、緊急時避難計画も審査し、不十分なら不許可)②防止対策のみで、メルトダウン事故の対策は問わず(世界では事故を前提に対策がなされ、欧州では溶け落ちた核燃料を受け止めるコアキャッチャー設備が義務)③福島第一原発事故の検証・総括がないまま④強化したという基準、地震六二〇ガル、津波の高さ六・二mも福島第一原発事故(六七五ガル、津波最大一五・五m)以下で算定が甘い……など数々の問題が指摘されています。特に川内原発は、周辺に五つ以上のカルデラがあり、大噴火による壊滅的な被害の危険性が指摘されてきました。あまりニュースにはなりませんが、今年から桜島は活発な火山活動が続いており、五月二十一日に五七二回目の爆発的噴火があり、史上六番目となる四三〇〇mの噴煙を観測。そんな状況で、再稼働が次々と進められているのです。

Q 原発再稼働を止めることはできないのですか?

今年四月十五日、規制委員会が基準適合と判断した高浜原発3、4号機について、住民側の運転の差し止め申し立てを福井地裁(樋口英明裁判長)が認めました。関西電力が想定する地震の規模は根拠が乏しく、安全対策も不十分と指摘。新基準に対しても、緩すぎて、合理性がなく、適合しても安全性は確保されず、再稼働で二五〇キロ圏内の住民の人格権が侵害される具体的な危険性があること、使用済み核燃料が国の存続にかかわる被害を出す可能性に対処していない点などを示し、よって憲法一三条が保証する生命、自由、及び幸福追求の権利、同二五条の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害するおそれがあるとしました。一方、川内原発は、鹿児島地裁判決(前田郁勝裁判長)が住民側の申し立てを却下している現状です。

Q なぜ日本政府は原発再稼働をそんなにも進めるの?

日本政府は、将来、核兵器保有国となることをもくろみ、一九五五年、核開発を利用したエネルギー政策を始めます。日米地位協定により日本に核兵器を持ち込みたい米国政府にとっても、核への抵抗感が減るため、好都合でした。
一九七九年、米国はスリーマイル島原発事故を契機に、安全性に疑いがあり、コスト高な核の商業利用からは撤退。しかし日本政府は、どんなに危険が明るみに出ても“核武装の可能性”である原子力開発を手放しません。二〇三〇年の電源構成(十五年後の発電計画)でも、原子力を二十~二十二%とし、原則運転四十年の原発も廃炉ではなく延命させることを前提とした、原子力回帰を示しました。世界唯一の核兵器被爆国であり、原子力発電所事故の被ばく国となってしまった日本は、核武装を目指す日本政府の思惑の中、戦後一貫して深刻な矛盾を抱え続けているのです。
噴火は予測不可能で、原発内にある二千体近い使用済み核燃料を、どこにどう運ぶのかめどすらも立っていません。

小出裕章他共著『原発再稼動の深い闇 』(宝島社新書 2012年)、 『原発を再稼働
させてはいけない4つの理由 』(合同ブックレットeシフトエネルギーシリーズ 2012年)

野中宏樹、木村公一著『原発はもう手放しましょう』(いのちのことば社 2014年)
水草修治、内藤新吾著『原発は人類に何をもたらすのか』(いのちのことば社FCCブックレット 2014年)