これって何が論点?! 第20回 米軍新基地建設は止められないの?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

よく話題になっているけど、なんだかよくわからない「沖縄基地問題」。去年十一月十六日に沖縄の県知事選挙があったけど、新しい米軍基地が建設されるの? どういうことが問題になってるの?
昨年末、名護市辺野古への「新基地建設」の是非が最大の論点となる沖縄県知事選挙が戦われました。自民党推薦の賛成・容認の仲井眞弘多氏に対して、移設反対の翁長雄志氏が十万票以上の大差で当選しました。新基地建設反対の沖縄の民意は明白となったわけですが、政府は選挙が終わった三日後には、中断していた浮桟橋などの再設置作業を住民の反対を振り切って再開。現在も沖縄県の民意と日本政府の安保政策は真っ向から対立し、ぶつかっています。

Qこの「基地問題」はいつから始まったの?
「沖縄基地問題」は、戦後史よりももっと古い十六世紀の歴史へさかのぼる必要があります。一四二九年から、沖縄は「琉球王国」という独立した国として歩んでいました。ところが、十六世紀から琉球と近い薩摩藩(現在の鹿児島)は、琉球王国に兵糧米などの負担を命じるようになります。一六〇九年に薩摩軍が琉球王国を侵略し、以後、薩摩藩の付庸国とさせられたのです。一八六九年頃の明治政府確立の後、廃藩置県で琉球王朝は強制的に廃止され、一八七九年に沖縄県となります。日本政府は沖縄で教育制度をスタートし、徹底したヤマト化、皇民化教育を行いました。沖縄の言葉の使用を禁止する「方言撲滅運動」を徹底。学校で沖縄方言を使った子どもには、罰として「方言札」を首にかけて見せしめにするという政策をとったのです。薩摩藩の侵略から二七〇年後には沖縄の文化も言語も奪い、日本人化を進めたのです。これは「琉球処分」と言われます。

Q沖縄は、ずっとしいたげられ続けてきたのですね。
映画やドラマでも知られていますが、一九四五年の沖縄戦は、市民の四人に一人が死ぬ悲惨なものでした。十万人の日本軍が沖縄に配置されましたが、彼らの使命は本土決戦の準備のために時間を稼ぐこと。主眼は国民を守ることよりも天皇制国体を守ることでした。そこで、日本軍は本拠地の首里で米軍に総決戦する道を選ばず、市民たちが避難した南方へと撤退を始めたのです。日本軍は住民を守るどころか、彼らが避難していた洞窟を取り上げ、砲弾の雨が降る中に追い出しました。また米兵の捕虜になることを禁じ、自決を命じます。そのために起こった集団自決は悲惨極まるものとなりました。二か月に及ぶ沖縄戦は、沖縄を犠牲にする、まさに第二の「琉球処分」だったのです。敗戦から七年後の一九五二年に日本は独立しますが、それは沖縄をアメリカ占領下に渡してのことでした。米軍に土地を徴用され、米軍関係以外の仕事にありつけない状況に置かれ、多くの女性が米兵相手の売春業に取り込まれる。日本が独立にわいた裏には、沖縄を切り捨て、沖縄にその後も二十年間、占領下の苦役を強いた犠牲があったのです。

Q米軍基地が、沖縄に多いのはどうして?
日本の国土面積の〇・六%に過ぎない沖縄に日本の米軍基地の七四%もがあるのは、一九六〇年代の「安保闘争」で、米軍の日本駐留に大きな反対運動が起こったためです。基地周辺でも拒否感が強まり、そこで日米両政府は〝沖縄〟に米軍基地を移転することにしたのです。本土の米軍基地を四分の一に縮小。その代わり、沖縄の米軍基地は二倍に拡大。こうしてさらなる基地負担が沖縄に課せられました。現在、沖縄全土の一〇%を米軍基地が占めます(三十三か所)。戦闘機の騒音はすさまじく、近隣住民は、安眠はおろか通常生活も阻まれるほどです。米軍ヘリコプターの墜落事故に巻き込まれる事件、米兵による婦女暴行事件も後を絶ちません。しかも「日米地位協定」により、日本の警察は処罰できないのです。うやむやになった事件は数えきれません。政府は「遺憾である」との声明を出すだけです。

Qなぜ、辺野古に新しく基地を建設しようとするの?
事の起こりは、一九九五年の少女暴行事件です。小学生の少女が海兵隊員三人からレイプされたニュースに、沖縄市民の怒りは頂点に達しました。各地で抗議運動が起こり、米軍基地の存続が危うくなることを覚えた日米両政府は翌年、十一か所の基地の全部または一部返還を明言(SACO最終報告)。普天間基地の移転は、そのうちの一つでした。民主党鳩山政権は、普天間基地の県外移設を初めて明言しますが、結局は断念し、「沖縄に甘受してほしい」と変わります。それが、以前から計画されていた辺野古の沿岸部への新基地移転でした。これは美しいサンゴの海を破壊し、恒久的に主要基地を沖縄に存続させるという意味です。ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争……。すべて、沖縄の米軍基地から爆撃機は爆弾を搭載して飛び立ち、爆弾を空にして沖縄に戻ってきました。憲法九条と矛盾する「日米安保条約」によって、多くの危険を一手に負わされているのが沖縄の現実です。一八七九年から現在に至るまで、日本政府は一貫して差別政策を行っています。教会はそのような差別を克服するべく取り組む責任があります。また、武力による抑止力は紛争を呼び、紛争は戦争を呼ぶ。新基地建設問題は沖縄だけの問題ではなく、日本が戦争加害者となるか、重大な問題が問われているのです。

推薦図書
沖縄生まれ、琉球新報の新聞記者を27年勤めた編著者。とても読みやすい!
前泊博盛編著『本当は憲法より大事な「日米地位協定入門」』(創元社、2013年)
矢部宏治著『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社、2014年)
新崎盛暉著『沖縄現代史』(岩波新書474赤、1996年)