これって何が論点?! 第2回 日本国憲法は、だれが創ったの?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

日本国憲法は、敗戦後、アメリカからやってきた連合国最高司令官総司令部(GHQ)によって「押し付けられた憲法」じゃないんですか?

「日本国憲法は占領軍によって押し付けられた」「だから、今こそ自分たちの手で憲法を作ろう」という人たちが今、多くいます。しかし、前回お話ししたように、アメリカからやってきた連合国最高司令官総司令部(GHQ)は、日本の民衆らが創った〝民間草案”を参考にしているのです。
そのGHQ案に対して、当時の日本政府は、「このような内容は日本にそぐわない」と抵抗しました。
しかし、GHQスタッフは、「それは日本政府にとってそぐわないだけであって、日本の民衆はそう考えていない。現に日本の民衆の草案にはこのようにあるではないか」と反論します。日本政府は返すことばもありません。
当初、日本政府もGHQのマッカーサーも、天皇を国家の最上位とする「天皇制」は、何とか守り抜こうとしていました。しかし、「天皇制廃止を望んでいる極東委員会が近々本格的に動き出す」という緊急の事情が迫ったため、天皇制の完全廃止を恐れた日本政府は、天皇を一切の政治的権限を持たない「象徴」の地位まで譲歩し、大急ぎでGHQ案を修正して承認し、国会での審議を経て、一九四七年五月三日、現在の「日本国憲法」が制定されたのです。
これらの経緯を見ていくと、「占領軍が日本に憲法を押し付けた」ということばは、厳密性に欠けるように思います。GHQ案が〝日本の民間草案”を多く取り入れていることは語られていないからです。つまり現憲法は、GHQと日本の民衆がともに、天皇中心の国家体制を守ろうとした日本政府に押し付けた、と言うほうがより正確です。

Q憲法は、政府の暴走を止めている?
日本国憲法の制定が、もし先に述べたような緊急の事情で急ピッチに進まなかったら、「天皇制」「戦力の不保持」を含め、多分、現憲法の内容はもっと違ったものとなったでしょう。なぜなら、日本国憲法制定直後、冷戦が深刻化し、朝鮮戦争が勃発するに至り、アメリカ政府は日本の軍事力を利用したいと願うようになったからです。
GHQを主導したアメリカ政府こそが、日本に戦力不保持の平和憲法(第9条)が制定されたことを一番残念に思うようになるのです。そして、今にいたるまで、日本の再軍備化、戦争協力を日本政府に働きかけるようになります。
しかし、常にその障害となったのが国家交戦権の放棄を定めた憲法第9条です。一貫してアメリカ政府が第9条の改正を望む中で、戦後六十六年間、それが改正されなかったのは、日本の民衆が平和憲法を望んだからです。アメリカ政府と同調する日本政府は、9条の改正を試み続けてきましたが、それを阻止してきたのは、平和憲法を守ろうとする日本の市民たちの運動です。日本の市民と日本政府との対立は、憲法9条の原理と根本的に相反する「日米安全保障条約」を締結する際にも鮮明になりました。
日本政府はまた、天皇を中心とする国家体制の復古についても一貫して試み続けています。政府が自由に権力・権限を行使し、民衆を支配する一番の近道は、天皇を絶対的な地位に置くことだからです。しかし、その障害となったのが、序文をはじめ、現憲法の至る所に貫かれている「国民主権」の原則でした。このように、現憲法である日本国憲法は、実は私たちの気づかないところで、国家権力の暴走を止める役割を果たし続けてきたのです。

Q憲法とは、誰のものなのか。
現在、自民党はその日本国憲法を変えようとしています。どう変えようとしているのでしょうか。
自民党が掲げている「憲法改正草案」の第102条によれば、憲法尊重擁護義務を課す相手を、政府から国民に変更し、主権を政府の手に取り戻そうとしています。天皇の地位を「元首」に高めることも、国民主権を弱めることと非常に深い関係があります。天皇の地位については重大な問題を含んでいますので、次回に改めて取り上げたいと思います。
今こそ、憲法は誰のものかを、私たち一人ひとりが問わなければなりません。政府は、自らの権力を規制しようなどとは考えません。むしろ、憲法という縛りから自由になり、権力を無限に行使したいと思うものです。ですから、憲法改正を政府に委ねるのは非常に危険です。
憲法改正が問われている今こそ、私たちは日本国憲法を自分たちの権利を守る大切な存在として捉え直し、「押し付けられた憲法」ではなく、自分を守る「私たちの憲法」という自覚を獲得するべきです。そして、憲法を尊重し擁護する義務を、政府に対して命じ続けてゆく責任があるのです。

推薦図書
ジョン・ダワー著『敗北を抱きしめて 上下巻』(岩波書店、2001年)
※第9条に関するたくさんの良い本の中から一冊。感動ものです。
ジャン・ユンカーマン監督作品 DVD『映画 日本国憲法』(シグロ、2005年)
※かなり面白いです。鼻血が出るほど興奮しました。『映画日本国憲法読本』(FOIL)もあります。