野外デスクの勧め

パント大吉イラストレーター

早朝5時、自転車で仕事場へと出かける。前カゴにはオニギリとタクアンと梅干し、あとは途中のコンビニでコーヒーとフルーツパックを買う。今日はどこへ行こうか? と思いを馳せる。八国山、北山公園、航空公園、狭山公園、小金井公園…それぞれの場所にお気に入りのデスクがあり、そこでイラストの下書きを描いたり、マンガの案をまとめたりして午前中を過ごす。いつの頃からかこれがルーティンとなった。仕事道具は、使用済みコピー用紙の裏紙をB6に切った束と、どこでもらったんだか分からない握りの悪い三角形の黄色いエンピツ。この組み合わせが妙に自由な発想を刺激してくれる。
私はイラストレーターのパント大吉。そんなに売れているわけでもないけれど、いろんな出版分野でずっとこうして描いていられるのは神様から与えられた職業だからだろう。どうやら人間は何かしら働かないと生きていけないらしいという事実に直面した20代前半、私は震えるほど恐ろしくなった。えっ! 働かないといけないの? どこかの社長さんの下でずっと働かされるの? みんなそうなの? どうしようイヤだよぉ~……とまぁこんな弱い人間だから、神様も見るに見かねて私にペンを持たせてくださったのだろう。
イラストレーターの仕事内容は大きく二つに分かれる。原稿を説明する絵、または原稿から発想を膨らませる絵の二つだ。発想を必要とする場合は部屋の中だと脳がフリーズを起こしやすくて遅々と進まないが、早朝の緑あふれる公園だとアイデアも量産できる。先月も水谷潔先生の『イエスの名言―それって、ありなの?』という新刊で発想力をふんだんに生かしたシュールなイラストを描かせてもらった。緑と新鮮な空気に包まれた野外デスクは神様もお勧めしているのではないだろうか。

この職業でもう一つ大切なことがある。それは仕事以外の自分自身の作品を創り続けるということだ。現在はネット上の個展会場がいろいろとあるので、企画した連載マンガを投稿し続けている。現在はインスタグラムで「妙ちゃん90歳ひとり暮らし」(@panto8010)という私の母の暮らしぶりと若かりし頃の恋の話などをのら猫の目線で綴っている。母は昭和30年代キャバレー黄金時代、人気ナンバーワンのホステスだった。この頃のキャバレーは体育館ぐらい大きく、ホステスさんの数も百人以上。毎夜ステージではバンドの生演奏があり、週末には美空ひばりやディック・ミネなどの有名歌手が次々と営業で歌いに来ていた。そんなレアな人生を送った母のことを愛を込めて描いていくのは私の使命でもあるような気がしている。
キリスト教に関するイラストでは特に気をつけていることがある。それは「いかにもキリスト教らしいものにしない」「一目でキリスト教に関するイラストだと分かるようなものは描かない」ということだ。見た人が「これってキリスト教に関係してるの? どこが? でもなんだか笑える」といったところを目指している。そうすることによってキリスト教への扉の重さが少しでも軽くなるとうれしい。そしてこれこそが私にピンポイントで与えられた神様からの指令だと思っている。