書評Books 神にあって、私たち一人ひとりが生かされ、輝くための説教集

日本ナザレン教団 札幌教会牧師 牧師
日本ナザレン教団 理事長 古川修二

『有能であるよりも、有益であることを』
小平牧生 著
B6判 950 円+税
いのちのことば社

厳しい時代の中だからこそ、「神のみことばのすばらしさを分かち合い、そのいのちにともに生かされていきたい」との著者の祈りが込められた、読みやすく美しい装丁の説教集です。最初の説教「私たちにあるものを知っているか」では、「ナザレのイエス・キリストの名によって歩きなさい」と語り、足のなえた男の右手を握って立たせたペテロの姿から、「私たちが福音を証ししていくとは、福音のメッセージを伝えるとともに、福音を受け入れて歩もうとする人と一諸に歩むことです」と、説きます。本書の題名となった説教「有能であるよりも、有益であることを」では、有能であったマルコの生涯から、挫折しつつも、主にとって有益な人に変えられていく人の幸いを語ります。「生まれながらに有益な人はいません。大事なことは、私たちがイエス・キリストにあって新しく変えられるということです」と語る言葉は、著者自身の体験に基づいているだけに読者の心に深く響きます。キリスト者の生涯はみことばの取り扱いを受け、日々主に新しくされ続けていくものであるからです。
それぞれの説教に書き加えられた証しは適切です。厳しい現実を信仰の目で見直し、教会内で起こった悲惨な出来事に向き合い、信徒の方々とともに、謝罪と和解への道を歩んでいく姿には、神の愛と力に生かされて歩む教会の本質が示されており、筆者が最も心打たれた証しです。
最後の説教「主よ。もう十分です。」ではエリヤの挫折と回復の過程を説き明かしつつ、阪神大震災で心身ともに疲れ果てた著者の体験が正直に語られており、「わたしがあなたがたを休ませてあげます」との主イエスの言葉に癒やされ立ち上がっていく姿に深い共感を覚えます。その姿は、主イエスの召命に従って歩みつつも挫折し、三年余りの歳月を経て新たな使命を受けるペテロの姿に重なります。
謙遜に大胆に語られた真実な説教に心揺り動かされ、出版するように勧めたのはナザレン教団壮年会の役員たちですが、この説教集ができるだけ多くの人々に繰り返し読まれ、主に豊かに用いられることを祈っています。