書評Books 宗教改革の大局を百ページ未満にまとめる小気味のよい一冊

日本同盟基督教団 和泉福音教会 主任牧師 青木義紀

『宗教改革の精神と日本のキリスト者』
中村 敏 著
A5判 1,500円+税
いのちのことば社

宗教改革は、多岐にわたる複雑な出来事です。これを正確に紹介し説明しようとすると、どうしても膨大な分量になってしまいます。とくに正確さを期して専門家がこれに当たると、その傾向にいっそう拍車がかかります。ところが本書は、実に潔く簡潔! 宗教改革の大局をわずか百ページ未満にまとめるという、小気味のよさです。宗教改革を扱った書物は世界に数多あれど、ここまでの簡潔さ・短さは、他に類を見ないほどです。宗教改革に不案内な初学者、「今さら聞けない」という方にこそ、おススメです。
本書のもう一つの特長は、後半で宗教改革を、日本の土壌や文化、日本人の精神構造との関係で論じている点です。宗教改革の精神を、どのように現代において継承するかということが、しばしば重要な課題になります。しかし宗教改革の専門家がこれに触れる場合、主体は十六世紀に置かれて、現代的な関心は補足的になる傾向が強いと感じます。しかし本書はむしろ逆で、後半にこそ主眼があり、日本キリスト教史を専門とする著者の面目躍如といった感があります。
その内容は、日本人がもつご利益信仰と世間体を気にする精神構造や行動基準に始まり、人文学的な思想を軽視して実利主義的な成果に走る近年の教育の問題、格差社会と職業観の問題、近年ますます混乱に拍車がかかる結婚や家庭の問題、日本キリスト教史上もっとも影響力をもった無教会主義と宗教改革の関係、そしてもはや単純に「政治の問題」として片づけられなくなった平和の問題が扱われます。二十一世紀を生きるプロテスタントの信仰者が、一度は考えなくてはならない課題ばかりが並びます。
長年、著者が、地方の教会と神学校に仕え、プロテスタント信仰に堅固に立ちつつ、冷静かつ鋭利な視点で日本を見つめてきたことが文章から窺えます。しかしその筆致はどことなく温かで、著者の穏やかな肉声が聞こえてくるようでもあります。私たち日本に生きるプロテスタントの信仰者が手元に置いて、二〇一八年以降もくりかえし読み返したい一書です。