自然エネルギーが地球を救う 第20回 水の利用|これからの可能性〈その1〉

足利工業大学 理事長

牛山 泉

二〇一一年三月十一日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、再生可能エネルギーに注目と期待が集まり、特に、水力や地熱のようなベースロードとして利用できる安定したエネルギー源に期待がかかっている。二〇一一年四月に環境省から公表された、日本における再生可能エネルギーのポテンシャル調査の結果によれば、中小水力発電の開発可能箇所は二万か所以上あり、合計一四GW(ギガワット)となっている。さらに二〇一五年に経済産業省から発表された長期エネルギー需給見通しでは、二〇三〇年における再生可能エネルギーの比率を二二~二四%とし、中小水力を含む水力は全体で約九%(四七GW相当)としている。
近代以降、昭和の高度成長期にかけて、産業の発展と都市の繁栄のため、山村地域の数百戸の家々を水没させ巨大なダムが造られてきた。一部の人々の犠牲の上に繁栄を築くという、近代化の過程で行われてきたやり方は反省すべきであり、持続可能という視点からの発想が必要となる。 国土交通省の河川局長を務めたダムの専門家である竹村公太郎氏によれば、これ以上ダムを増やすことなく、水力発電を二倍にも三倍にも増やすことが可能であり、金額にして毎年二兆円から三兆円分も増加しうる、しかもこの豊かな電力量が半永久的に継続するという。まさに二十一世紀の大きな夢が現実的に可能であるという。その根拠は「日本の既存のダムの実力を十分に発揮させればよい」のだと。「神の川は水で満ちて」(詩篇65・9)いるのである。

現在、日本の多目的ダムでは、水は半分くらいしか貯められていない。水を多く貯めるほど水力発電には有利であるが、ダムの目的には「利水」と「治水」がある。前者は、家庭の水道水、工場で使う工業用水、農業用水、発電用の水もこれである。一方、後者は台風や集中豪雨などによって引き起こされる洪水予防である。したがって、治水のためには、通常はダムの水をなるべく少なくして大雨の時のスペース(治水容量)を空けておく必要がある。現実的には、気象衛星や気象レーダーで天候の情報を集め、台風などの大雨が予想される少し前にダムを空ければ十分に洪水は防げるのであるが、六十年以上前の社会情勢に合わせてできた多目的ダム法に規定され制約を受けている。科学技術の進歩により、治水と利水の多目的ダムの矛盾する運用を限りなく小さくすることが可能になっているのだ。
さらに、現在のダムの潜在力を生かすカギは、日本の川に対する国の姿勢を示す「河川法」という法律である。この法律は大昔一八九六年(明治二十九)に制定されたが、その目的は治水と舟運であった。一九六四年になると、これに利水が加わった。これ以降、多目的ダムが多数建設され、さらに一九九七年には「環境」という文言が加えられた。したがって、明治の河川法はおもに治水、昭和の河川法は治水と利水、平成の河川法は治水と利水と環境保全の三つの目的があることになる。
世界的に化石燃料資源の限界が近づき、温室効果ガスの排出規制も厳しくなっている。原子力は福島の事故以降、国民の支持は得られなくなっている。現在必要とされているのは、河川法に「河川のエネルギー開発」を盛り込み、国が積極的に水力発電の開発に関与することである。

日本に一年間に降る雨や雪の位置エネルギーをすべて水力発電により電力に変換すると、七一七六億kWh(キロワットアワー)になると試算されている。現在の日本で一年間に発電されている電力量は約一兆kWhであるから、もし水力を全部開発できれば、電力需要の七〇%ほどを賄える計算になる。現在の水力電力量は九〇〇億kWh強であり、理論値には程遠い。
一方、既存の多目的ダムの運用変更と嵩上げ工事はすぐにも実現可能であるから、これにより三四三億kWhの電力が生まれることになる。このうち中小水力発電については、開発可能地点の試算が調査により異なるが、少なくとも一〇〇〇億kWh程度の電力量を増やせると考えられる。これらを合わせると一三四三億kWhであるから、既存のものと合わせて水力発電全体では二二〇〇億kWh以上となり、日本の電力の二〇%を超える。金額にすると、現在の家庭用電力料金一kWh当たり二十円で換算すると、年間一〇〇〇億kWhの電力料金は二兆円にも相当するのである。
川は繁栄をもたらすものであり、ダム本体は半永久的に使えるから、子孫への持続可能な巨大な遺産を残すこととなるのである。「見よ、わたしは川のように繁栄を彼女に与え、あふれる流れのように国々の富を与える」(イザヤ66・12)

*ベースロード=電力供給事業において、季節や時間帯によらず年間を通じて最低限に維持・供給される発電量。