書評 日常の中で見失いがちな 大切なもの

ミュージックミッショナリー(音楽宣教師) 久米小百合

 

『みつけたよ』
泉谷千賀子 著
四六判 1,300円+税
フォレストブックス

なんともかわいらしい表情の羊さんに見つめられ、なんだかこちらまでニンマリしちゃいます。そう、私の手元にある『みつけたよ』の表紙を飾っているカバーガールならぬカバーボーイの羊毛フェルトの羊さんです。
フェルトと聞いてイメージするのはあの平たいシート状になった手芸材料ですよね。色合いもどちらかというとハッキリした赤や青、ピンク色のシートを見かけたことがあります。それを切ったり縫い合わせたりしてアップリケなどを作られる方もいらっしゃるでしょうか。
ところがこの羊さんの毛並み、あの手芸店で見かけるフェルトとは質感がまったく違います。もっとフワフワで軽そうで柔らかい風合いです。色味も優しいミルク色です。同じフェルトでもこの違いはなぜでしょう。実はこの本の作者の泉谷さんにお会いする機会がありうかがいました。その答えはどうも作り方にあるようです。そしてキーワードはやはり化学繊維ではなく、羊毛でした。
羊は旧新約問わず聖書の中では引っ張りだこの動物です。イエス様は私たちの弱さや意気地のなさを迷える羊に喩えましたが、実際羊は近視眼で臆病な動物みたいですよ。だからときどき迷子になるそうで、それもまた日常の中で大切なものを見失いがちな私たちとよく似ています。
厳しい現実社会の中で、職場や学校という囲いから迷い出たり逃げ出したりして一人ぼっちだと感じている人も少なくありません。この本はそんなひとりひとりを見つめてくれる神さまの眼差しを思い起こさせてくれます。ほかにもすずめ、ロバ、小鳥など小さな動物たちが無言でよい役を演じています。肝心の作り方ですが、羊毛はハサミで切らず手でちぎり、ちょと痛そうですが針で刺し続け祈りながら形作るそうです。キリストのパンと血潮に通ずるような……。巻末には詳しい作り方が紹介されていますので、イースターエッグなどに挑戦されてはいかがでしょう。もちろんかわいい子羊の作り方も載っています。