連載 自然エネルギーが地球を救う 第13回 そもそも「風」という現象とは?

足利工業大学理事長 牛山 泉

風は目に見えないうえに気ままな動きをするために、昔から世の中でわからないもの、あてにならないものの代表のように言われてきた。聖書にも「風は思いのままに吹き、あなたはその音を聞くが、それがどこから来てどこへ行くかを知らない」(ヨハネ3・8)とある。このように気まぐれでわかりにくい風であるが、最近ではスーパー・コンピューターや人工衛星の助けを借りて気象学が大きく発展し、地球を取り巻くさまざまな風の動きも明らかになってきた。

ところで、風はなぜ吹くのであろうか? 先に正解を簡単に述べてしまえば、「風は太陽のエネルギーが地球を暖めるために起きる現象」ということになる。宇宙空間に浮かんでいる地球の中で、太陽との距離が最も短い赤道付近で太陽エネルギーが一番強く、北極や南極に向かって緯度が高くなるにつれて弱くなる。このため赤道付近は陸地も海面も温度が高く、そこに接している赤道付近の空気は暖められて軽くなり、上昇するという対流現象が起きる。
赤道付近の風が上昇すると、その場所の気圧が低くなり、赤道に向かって北半球では北東から、南半球では南東から風が流れ込んでくる。真北、真南の風にならないのは、地球が自転しているからである。この赤道に向かって移動する地球規模の南北の方向の大気の流れを、「大気大循環」という。また、多少ロマンチックに「貿易風」とも呼んでいる。この赤道への風のように、気圧の高いところから低いところへ向かって空気が移動することが、風の吹く基本的な原理なのである。
地球には、赤道に向かって吹く風のほかに、もうひとつ、西から東に吹く風もある。北極の上空から見ると、地球は左回りに自転していることから、地面に接している空気が、地球の自転により移動して風が引き起こされるためである。この地球規模で西から吹いてくる風を「偏西風」と呼び、日本の上空では、地上十二キロメートルから十六キロメートル付近で、西から東へと強い風が吹いている。したがって、日本からアメリカに向かう飛行機は追い風になり、短時間で目的地に着くが、帰りの便は向かい風になり余計に時間がかかることになる。

地球上に吹いている風には、「貿易風」や「偏西風」のような地球規模のスケールの大きな風から、夏と冬で風向が変わる一年周期の中規模のスケールの「季節風」、もう少し規模の小さな、朝と夕で風向の変わる「海風・陸風」や「山風・谷風」、さらには特殊な気象条件により発生する台風や、ハリケーン、竜巻、極めて狭い地理的条件で発生する突風、さらにはビル風など多くの風がある。
ここで、規模の小さな「海風と陸風」について考えてみよう。海風は海から陸へ、陸風は陸から海に向かって吹く風である。日中に同じ太陽のエネルギーを受けても、陸地のほうが海水より早く暖まることから、陸地の空気は暖まって軽くなって上昇し、そこに海の方から空気が移動してくることになる。したがって、朝から昼間は海から吹いてくる「海風」になるわけである。一方、夕方から夜間になると陸地は早く冷えてしまうのに対して、海の表面はまだ暖かいために、海水に接している空気は上昇し、そこへ陸の方から空気が移動してくるため、「陸風」になる。
「山風・谷風」も類似の現象で、暖まりやすい山の南斜面と、暖まりにくい谷間との間で起きている。朝から昼間は谷間からの風が吹き、夕方から夜間は山から谷間に向かって風が吹く。風は一日の初めと終わりを告げてくれるわけである。

日本の風について考えると、冬はシベリアの大地の上に「シベリア高気圧」と呼ばれる冷たく重い空気が発達し、ユーラシア大陸から、暖かい北太平洋の方、つまり日本列島の方に向かって風が強く吹くことになる。その冷たい風は日本海でたくさんの水分を含んで日本海側の地方に雪を降らせた後に、日本列島の背骨のような脊梁山脈を越えて、太平洋側では冷たく乾燥した北風や北西の季節風となって吹き下ろすことになる。これが「空っ風」と呼ばれる冬の風である。空っ風は、各地でいろいろな名前で呼ばれており、北関東の「赤城おろし」や「筑波おろし」、山形県の「清川だし」、阪神タイガースの応援歌にもなっている、関西の「六甲おろし」など数多くある。「だし」は主に日本海側で、「おろし」は主に太平洋側の内陸の風である。
神が創造された地球のさまざまな自然条件によって生じる「風」を利用して、人類は益を得てきたのである。