flower note 5 万民を魅了する花


おちあい まちこ

今月の表紙はバラです。「万民を魅了する花」と言っても過言ではないでしょう。西洋の歴史にたびたび登場しますし、古い絵画の中にもたくさん描かれています。切り花を部屋に飾ったり、庭で栽培したり、お茶やポプリや香水など、ハーブとして楽しんでおられる方も多いことと思います。バラは身近で、私たちの生活に豊かさをもたらしてくれる代表的な植物といえるのではないでしょうか。バラの歴史に大きく貢献したのが、ナポレオンの妻ジョセフィーヌです。浪費家でも知られる彼女は、夫の権力を後ろ盾に世界中からバラを集め、マルメゾン宮殿にバラ園を造り、育種家を雇って交配を続け、画家にバラを描かせバラ図鑑も作りました。当時の育種家の弟子、ギョーによって現代バラが生まれたことから、ジョゼフィーヌは現代バラの母とも呼ばれます。
夫が戦争をしている最中、敵国からも密かにバラを収集していたという記事や、彼女の経歴や肖像画などを見ると、自由気ままで勝ち気な女性のイメージが湧いてきます。しかし、昨年バラの季節に神代植物園に出かけた折り、ガイドツアーの方が「ジョセフィーヌはナポレオンとの間に子がなく、新しい皇后を迎えるためにマルメゾン宮殿に移された」という話をされていました。恋多き女と言われた彼女の人生の中には、財力や美貌だけでなく苦悩もあったのかと、そのことがバラへと向かわせた背景のひとつなのかもしれないと、また勝手な想像をしました。マルメゾン宮殿のバラは、彼女の波乱万丈な人生あってこそ生まれた、現代へと続くバラなのかもしれません。
神代植物公園のバラ園はフランス式庭園で、少し高い所から低い位置に植えられたバラを見ることができます。その数400種5000株。日本のバラ園としては歴史も古く、開園当初からの古い株が今もなお大切に育てられ、そのことが世界的にも評価されています。テラス風の建物からさまざまな色や形のバラを見下ろすとき、その美しさとともに、ジョゼフィーヌのバラ色ではなかったかもしれないバラ一筋の人生を思わずにはいられません。