flower note 11 次への準備


おちあい まちこ

紅葉の季節。今月からは樹木に注目してみようと思います。
秋が深まってくると、赤や黄に染まる落葉樹の美しさに誰もが心まで奪われます。落葉をよく見てみると、色や形は似ていてもひとつとして同じものはないことに気づき、それぞれの葉がそれぞれの場で生きてきた証しなのかと思わされます。
葉っぱはなぜ落ちるのでしょう。葉の老化現象というだけでなく、樹木が寒い冬を生き抜くための策ともいえます。樹木にとっては、年間を通じて温暖かつ水分が足りた環境が理想的で、これが保たれていれば常緑樹林ができますが、そうでない場合は、葉が問題になります。葉は樹木にとって、光合成を行い栄養を作り出す大切な部分ですが、薄く突出しているために、乾燥にも冷気にも弱いのです。低温によって光合成する力を失った葉は、呼吸するのにより多くのエネルギーを必要とするので、樹木の負担を増やしてしまいます。そこで樹木は、葉に蓄積された養分や栄養素を分解して回収し、樹木の枝や幹の老廃物を葉に送り、その上で葉を落とします。生きるための策とはいえ、切り離す前に不要なものを送りこむとは全くよくできた、何一つ無駄のない仕組みで感動さえ覚えます。乾期や冬季が厳しくなければ、葉を落とさずに切り抜けることができますが、その代わり葉を小さく厚くして乾燥や寒さに耐えられるようにするのです。常緑樹を見るとよく分かります。
この話は、私が公開講座を担当している大学の樹木のクラスで学びました。そのとき以来、駅の途中にある公園の樹木の名前や季節ごとに変わる姿が気になり、今まで見過ごしていた花の時期も気づくようになりました。落葉の頃には枝の先端に来春の芽(冬芽)が小さく見えています。次への準備をしているのです。天を仰ぐように伸びる木々を注意深く見るようになったら、生きるために必要なことはすでに備えられていて、そういうふうに創られていることに気がつきました。

~今月の植物~
紅葉
紅葉、もみじ(紅葉、黄葉)とは、主に落葉広葉樹が落葉する前に、葉の色が変わる現象のこと。ただし、読んで字のごとく、葉の色が赤変することだけを紅葉(こうよう)と呼ぶ場合もある。