CD Review ◆ CD評 音楽の最も美しい部分は、耳には聞こえない…


輪嶋東太郎
音楽プロデューサー
ヴォイス・ファクトリイ株式会社代表

本誌を手に取られる方のほとんどはご存じと思われる韓国のテノール歌手ベー・チェチョル。アジアのオペラ史上最高のテノールと称されていたが、甲状腺のがんにより人間が声を発するために必要な神経すべてを切断するという悲劇を経験しながら、人類の歴史上でいまだかつてないような奇跡を体現し、舞台に復帰。多くの人にその歌を通して、愛と祈りを伝えている。演奏会で、必ず歌う前に後ろを向いて短く祈りをささげる彼に、「何を祈っているのか」と尋ねたことがあった。「一音たりとも、自分をひけらかすということがなくなりますように。すべての音を、あなたのために歌う自分でいられるように、私を縛ってください」と神様に祈ってるんだ、彼は私にそう答えた。
その彼と共に歩く道を与えられた私は、その過程で主に出会い、そして「音楽の最も美しい部分は、耳には聞こえない」という、宝のような気づきを得た。それは、愛や祈りのような、一種の周波数のようなものなのかもしれない。
このCDを聴いたとき、「歌っている方は、どれほど純粋に神を想い、神を求め、神にささげようとしているのだろうか」と感じた。不勉強な私は、演奏者である遠藤かおるさんについては、これまで何も存じ上げなかった。しかしその音楽の中にある、ひたむきな純粋さに惹かれて、プロフィールを拝見し、これまで多くのところで賛美の演奏に用いられてきたこと、そして現在、乳がんに加え膵がんという、大変な試練と闘っておられることを知った。「なるほど」と納得する思いだった。
恐らく想像もできないほど、ある意味、命のすべてをかけて歌われたものなのだろう。私を導いたベー・チェチョルのように苦しみをも受け入れ、それを神への感謝として昇華させたところにしか現れない、技術ではどうにもならない心の世界。それがこの一枚のCDには収められている。
これこそ、遠藤かおるさんの、一人のキリスト者として生きた証であり、同時に神への証として、聴く者に必ずや「音楽の最も美しい部分は、耳には聞こえない」という宝を発見させるだろう。

「わが光わが救い」
遠藤かおる

全17曲 2,000円+税
制作・発売元 ライフ・クリエイション
TEL.03-5341-6927 (48740)
<収録曲>1 わが光わが救いなる 2 主よ、みこころをとめたまえ 3 主はわが牧者 4 ああ感謝せん 5 み冠をもなれは捨てて 聖歌136番 6 神は世を愛されて 7 人よ罪に泣け 8 きみもそこにいたのか 聖歌400番 9 われは復活なり生命なり 10 おどろくばかりの 聖歌229番 11 苦しみわれを囲むとも 12 主がわたしの手を 聖歌651番 13 主の恵み 14 わがとも主イエスは 聖歌493番 15 贖い主は生く 16 永遠の神の都 17 主の祈り