CD Review ◆ CD評 「二度目の新しい声」に引きつけられる

「J-Frontlines Live Worship 2010」
坂 直子
在日大韓基督教会 京都教会 牧師夫人

 疲れがたまると、牧師である夫は、近くの銭湯で汗を流すのが常だ。その日、帰って来るなり、やや興奮しながら言った。
「テレビ見た?」
なんでも、何気なく見ていたサウナのテレビで、がんのため声を失ったあるテノール歌手が、声を取り戻すための手術を受け、最初に歌ったのが、賛美歌「輝く日を仰ぐとき」だったというのだ。チャンネルを変えようと する客に、夫は「見てますけど」と言って変えさせず、そのサウナにいたすべての客は、この「輝く日を仰ぐとき」を、汗を流しながら、全員聞いたのだと、興奮気味に話してくれた。私が初めて「ベー・チェチョル」というテノール歌手を知った日のことだった。
後日、私も再放送を見ることができた。十分なリハビリを待たずして、術後初めて教会で歌った「輝く日を仰ぐとき」は、声に伸びがなく、か細い高音が消えかかっていた。しかしそれはリハビリのせいだけではなく、感涙にむせび、声に詰まったためだった。
「わが霊 いざたたえよ 大いなる 御神を」
会堂で歌を聞いていた人々から自然と歌声が沸きあがる。私はこのとき受けた感動を、昨日のことのように覚えている。
あれから三年。彼は新しいCD「この清らかな住まいよ」をリリースした。「使命としてうたう歌」と「オペラ歌手として」の二枚組。日本で手術を受けた彼は「使命としてうたう歌」で日本語でも歌っている。七割程度回復した肺と、片方しか動かない声帯だけで歌っているとは、とても思えない。ぎゅっと詰まった響きのあるその声は、過酷なリハビリとトレーニングが結実したものだ。
しかしそれ以上に、歌う喜びと生きる感謝にれた「二度目の新しい声」は、聴く者を引きつける深い味わいがある。一度は沈黙を余儀なくされた「百年に一度のテノール」。沈黙と壮絶な試練を通って再び与えられた声が「奇跡の歌声」と称される理由が、このCDに収められている。

坂直子著『空が微笑むから』(いのちのことば社)発売中。がんを乗り越えた感動の記録