自然エネルギーが地球を救う 第3回 自然エネルギーは高コスト?

牛山 泉
足利工業大学学長

日本の社会に依然として根強く残っているのは、経済成長を優先する経済信仰と技術力を過信する技術信仰である。しかしイエスは「人は、たとい全世界を得ても、いのちを損じたら、何の得がありましょう」(マルコ8・36)と述べている。いのちを軽視する社会は、どんなに物質的に富んでいても空しいものである。

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日本の自然エネルギーに関する政策の中では、経済性における制約から普及が十分でないもので、普及促進を図ることが特に必要なものが政策支援の対象になっている。現時点での、太陽光発電や風力発電、あるいはバイオマス発電などの自然エネルギー発電は、火力発電など従来型の発電方式に比較して発電コストが割高で、これが普及を妨げる大きな障害であるということになっている。
政府が二〇一〇年十二月に発表した電源別の発電コストによれば、二〇一〇年時点の石炭火力発電の発電コストはkWh(キロワット時)あたり九・五円、LNG(液化天然ガス)火力発電は一〇・七円、原子力発電は八・九円となっている。これに対して自然エネルギー発電のkWhあたりの発電コストは、住宅用太陽光発電が三三・四―三八・三円、バイオマス発電が一七・四―三二・二円、風力発電(陸上)は九・九―一七・三円となっており、従来型の発電方式に比較して確かに割高になっている。
政府は技術革新によるコスト低減や、設備利用率の向上、導入・運用費用の抑制などを通じて自然エネルギーの発電コストを抑え、それによって普及の拡大を目指している。石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料は、世界的な需要の拡大や中東地区の政治的不安定状況により、今後は価格が上昇する可能性も考えられる。そのような観点からも、新エネルギーの発電コストを下げることには重要な意義があるといえよう。
そこで自然エネルギー発電の普及の呼び水として期待されるのが、二〇一二年七月にスタートした「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度」である。世界的にはFIT(Feed in Tariff)と呼ばれるこの制度は、電気事業者に、太陽光発電や風力発電など、自然エネルギーで発電された電力を全量、一定の期間、一定の価格で買い取ることを義務づけるものである。

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日本の自然エネルギーによる電力の導入が進めば、先進国の中で一番低い、僅か四%にすぎないエネルギー自給率の向上、新たな自然エネルギー関連の産業育成、CO2排出削減などの効果が見込めることになる。FIT制度の先進国であるドイツやスペインなどでは自然エネルギーの導入量が急増し、スペインでは太陽光発電が増えすぎて、太陽光発電に対するFITの適用を中止したほどであり、日本でもFIT制度導入により、当初一〇kW以上の太陽光発電に対して、kWhあたり四二円という高額の調達価格を設定したことから、導入希望者が急増し、電力会社からは電力系統への接続を保留する動きも出ている。
FITの効果は、買い取りの期間や価格によって変わり、長期間、高額で買い取るほど導入量は増えるが、買い取りによるコスト上昇分は電力料金の上昇につながるため、バランスの取れた買い取り価格・期間の設定が求められる。日本ではFITの根拠となっている再生可能エネルギー特別措置法により、買い取り価格を設定するに当たり、同法施行後三年間は再生可能エネルギー電力の供給者の利潤に配慮することが定められている。

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ここで、自然エネルギー発電は本当に高コストなのか考えてみよう。「わたしはあなたがたのために立てている計画をよく知っているからだ。―主の御告げ―それはわざわいではなくて、平安を与える計画であり、あなたがたに将来と希望を与えるためのものだ」(エレミヤ29・11)とある。
前述の発電コストの計算において、火力発電の場合には、化石燃料を使用することから、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を避けられないが、その影響については考慮していない。また、原子力発電の場合には、安全性確保のためのコストや使用済み核燃料の処理及び保管コストについては考慮していない。特に原子力発電の場合には、十万年もの間、誰が責任をもって核廃棄物を保管するのであろうか。この費用は未来永劫にわたって払い続けなければならないのである。未来世代の生命を脅かすことになるような選択は経済性を超えて倫理的に許されないことではあるまいか。これが人類に将来と希望を与えるものであるか否かは明らかであろう。