私のとっておきの1冊 第3回 『八木重吉に出会う本』


藤原亜紀子
ミッションエイド・クリスチャンフェローシップ会員


八木重吉に出会う本

(現在品切中)
フォレストブックス
A5判 96頁
定価 1,575円

祈る言葉すら出ない時、そっとこの本を開いてほしい

 この本は、『わがよろこびの頌歌はきえず』というタイトルで1992年に出版されたもののリニューアル版。夭折の詩人・八木重吉の詩と信仰を多角的に紹介したビジュアルブックで、新旧版共に重吉との出会いをもたらしてくれた思い出深い本である。

 詩はもともと好きで、高校時代は萩原朔太郎にはまり、茨木のり子に憧れた。八木重吉も気になる詩人の一人だったが、生意気盛りの当時の私には、重吉の詩の素朴さが何となくつまらなく思えた。

 重吉の詩に再び出会ったのは、28歳の時。この本を通してだった。クリスチャンになっていた私は、重吉のひたむきな信仰者としての歩みを知り、その詩を読んだ時、震えるような感動を覚えた。心というものを身体の奥から取り出して、そのまま言葉にしたような、そんな詩だと思った。カラー頁に添えられた松永禎郎氏の日本画がまた素晴らしく、ストイックな重吉の精神世界に誘われるような感じがした。

 花の詩人・星野富弘さんがこの本に特別に稿を寄せている。重吉のように誰にでもわかる言葉を使って詩を書きたいという星野さんは、詩作に行き詰まると重吉の詩を読むという。そしてこう記している。「素朴な心の詩は、私の内で静かに燃え続け、これからも私を支えてくださることでしょう」。

 私は、この本を若い人に読んでほしいと心から願う。本を読まないゲーム世代、ケイタイ世代にこそ、重吉の短くて、わかりやすい言葉で書かれた詩が、インパクトをもって響くのではないか。

 わが家のリビングのマンガだらけの本棚に、ひっそりと佇む『八木重吉に出会う本』。この背表紙に、いつか子どもたちが手を伸ばしてくれる日を私は待とうと思う。成長し心目覚め、自らのみにくさを激しく嫌悪する時、誰にも言えない秘密を抱えた時、祈る言葉すら出ない時、そっとこの本を開いてほしい。