時代を見る目 95 簡単にレッテルを貼らないで

荒川 雅夫
福音伝道教団 前橋キリスト教会 牧師

「戦国時代と幕末が同時にやってきたような時代です。」

 朝日新聞の「自分を磨く」という企業リーダー養成講座の記事で、童門冬二氏の言葉が紹介され、現代の危機的状況を逆転させる道を模索する研修を取り上げていました(二〇〇二年七月六日)。

 まさに現代は危機の時代と言われますが、同時に、それだけ機会が満ちあふれ、多くの機会に恵まれているといえるでしょう。それだけに若い人々が大きな志に目が開かれたとき、どれほどすばらしい生涯を歩むことができるでしょうか。

 私たちは他の人を評価するのに「こういう人だ」と、まるでわかったかのように簡単にレッテルを貼ってしまいやすい。なお悪いことに、その目を自分自身に向け、自分で自分にレッテルを貼り、簡単にあきらめてしまう。しかし、信仰の世界は際限のない成長を約束しています。死ぬまで人は成長するのです。ですから自分の生涯を形造る仕事は死ぬまで用意されているのです。

 だからこそ「簡単にレッテルを貼らないで。」そう叫びたいのです。

 この自分を形造る仕事は、いろいろな方法があるでしょう。ある牧師が、神学に造詣の深い先生に尋ねたところ、「君、まず自分の四畳半を造りたまえ」と教えられたといいます。この「四畳半を造る」とは、見習いたいと思える一人の教師の学びを奥深く進めることだそうです。そうすると必ず自分にふさわしい信仰や神学の態度と方法がわかるということでした。

 聖路加病院の日野原重明先生は、優れた内科医の先輩であるウィリアム・オスラー教授の著作に啓発され、あらゆる著作を読み、内科医として四畳半を造ったのだと思います。そしてついに教授が育てたアメリカの病院に研修し、すでに亡くなっていた彼のスピリットが今も脈々と生き続ける医療を目の当たりにして感動し、帰国してからその医療を実現しようとしたのです。すでにこの世を去ったオスラー教授やその著作によっても、すばらしい出会いは起こったのです。

 たしかに今の若い人は、本を読むことが苦手かもしれません。でも、ふと手にした書物が生涯を導く契機となるかもしれないのです。この本と出会うために今日まで生きてきたのだ! と言いきれる本との出会いが待っている……。そう考えるだけで胸がわくわくしてきませんか。