時代を見る目 237 「傾聴」でつながるコミュニティ [3] いのちのことばを口と心において、コミュニティで果たす役割を生きる

水谷裕子
NPO法人 アーモンド コミュニティ ネットワーク 理事長
心理カウンセラー

教会でのカウンセリング現場体験から、困難を抱える人は教会にたどり着くまでに、学校、会社、家庭で場所を失い、心の問題も重篤化している実態を見てきた。キリスト者は教会だけにとどまらず、自らがコミュニティに出て行き、公共的な活動、福祉の領域の活動に参画して、多様な個性・文化・価値観を持つ人々に交ざって、社会で今何が起きているのかを体験的に知ることが大切だ。生きづらさの中に多くの国民が沈んでいくときに、「永遠のいのちのことば」を持った人間のほうから、他者に向かって歩いていくのだ。待っているだけでは遅いのだ。私たちの口と心にあるみことばは、生きづらさを抱える人のいのちを生かす霊的なことばだからである。「御言葉はあなたのごく近くにあり、あなたの口と心にあるのだから、それを行うことができる」(申命記30章14節、新共同訳)

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2014年1月「子どもの貧困対策法」が施行された。対象となる子どもは約232万人とされる。同じ月、私たちのNPO法人は横浜市より受託した「寄り添い型学習等支援事業」を開始した。相対的貧困率に現れる“平均的な生活”が送れない子どもは、友達関係から孤立して、社会的なつながりを失うこともある。携帯やスマホがなければ、仲間に加わることができない。親の離婚からひとり親家庭となり、家族関係の変化に葛藤して苦しむ。非行、不登校、ひきこもりから進学や就労が困難になっていくことも多い。一方で、自分の弱さや、家族への不満、学校や友人関係での悩みを安心して話せる「心の居場所」があれば、心の安定は保たれる。支援事業でも、学習に入る前にひとしきり心の重荷を表現して、その後ふっきれたように取りかかる子どもがいる。傾聴が必要だ。
親の離婚を10代で経験したA子は、苦しくなると祖母の年代の恩師に自分の思いを傾聴してもらい、苦難の中から大きく成長した。親では受けとめることが難しい思春期の心。弱さを抱えるA子のありのままに寄り添い、彼女を愛し、信じて、いのちの尊さと未来への希望を教えた恩師。語りかける口と心にはいのちを生かすことばがあり、心を健やかに導いた。だれにでも人格的な交流、「私」に向き合ってくれる「あなた」が必要だ。やがてA子は20代になり、子どものために働く心理カウンセラーの道を選んだ。
試練の冬の季節、アーモンドの花は芽吹く。やがて花嫁の花束のように希望と約束の花が咲くことであろう。