時代を見る目 234 加害者と生きる社会 [3] DV加害者は変われるのか

栗原加代美
NPO法人 女性・人権支援センターステップ代表
DV加害者更生プログラム ファシリテーター

「DV加害者更正プログラム」を始めて3年になる。相談に来るDV被害者の妻たちの半数以上が、抑うつ状態にある。自傷行為をくり返し、自殺を考える人も多い。愛を誓い合い、子どもまでもうけた夫から叩かれ、無視され、「おまえは能なしだ、妻失格だ、母親失格だ、死ね」と怒鳴られ、自分も夫も信じられなくなる。自分が悪いから夫になぐられるのだと自分を責める。夫におびえ、自分の意見が言えなくなり、離婚を決断して逃げる妻も多い。これが夫からDVを振るわれた妻たちの実態である。
このような妻たちが、夫に変わってほしい、自分にできることはあるのかと、悲痛な叫びとともに「加害者更生プログラム」に訪れる。そして夫が変わることを忍耐してひたすら待つ。
その中のある妻は、DVを受けたストレスを虐待という形で子どもにぶつける。虐待された子どもは、学校で友人にいじめという形であたる。では、大元のDVを振るう夫たちはどこでDVを学んでくるのだろうか。
DVの本質は暴力行為そのものでなく「日常化した力と支配の主従関係」にある。妻を「奴隷化」させることである。さらに、相手が言うことをきかなければ叩いていいという「暴力容認意識」。この歪んだ価値観は社会のそこかしこにある。父親と母親、親と子ども、上司と部下、教師と生徒、部活の先輩と後輩など……。そう考えると、DV加害者も社会の被害者であるかもしれない。しかし加害行為は、複数の選択肢から選んだ彼らの責任である。

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この連鎖を断ち切るためには、DVを個人の問題でなく、社会全体の問題としてとらえたい。
中学三年生の男子生徒が、ステップの「加害者プログラム」で連鎖を絶ち切りたい、と訪れたケースを紹介する。彼の家庭では父親が母親にDVをふるい、母親が彼を虐待し、彼が妹に虐待をしていた。さらに彼は学校でもいじめのリーダーとなっていた。父親がプログラムに参加してDVが改善し、家族に笑顔が戻ったので、彼もどうしたら虐待やいじめをやめられるのかと通い始め、4か月ほどでそれらから解放された。連鎖を断ち切りたいと気づき、行動に移した彼に拍手を送りたい。
このケースに見られるように、DVの連鎖を断ち切るには、DVだと気づいた夫が支配をやめ、「互いを尊重する関係」の素晴らしさを身を持って子どもに伝えること。それが、DV根絶の大きな力になると信じている。