文学ジャンル別聖書の読み方ガイド 第30回 最終回 黙示録の解釈 下

関野祐二
聖契神学校校長

 ● まだ起こっていない?

黙示録独特の難しさは、預言書のそれと似ています。私たちに対する神のことばは何よりもまず、書かれた当時の人々に対する神のことばのうちに見いだすべきものですが、他の文学ジャンルと対照的に、預言書と黙示録は、当時の人々にはまだ起こっていない出来事について、しばしば語るからです。その中には、私たちの置かれている歴史ポイントからすればすでに起こった出来事もあり、例えばエレミヤの預言どおりユダは捕囚に遭い、回復もされましたし、ローマ帝国はヨハネが見たような現世のさばきに服しました。今なおみことばとして神のさばきの理由を聞くことができる私たちは、貧者を虐げる悪人どもをさばく神が(アモス二・六―七)、ローマに対してと同じように、クリスチャンを苦しめた人々の上にも、相応のさばきを注がれると確信できるでしょう(迫害者のため祈りますが)。さらに私たちは黙示録から、主のしもべに対する訓練が十字架の道を通ること、主は苦しみや死からの解放よりむしろ、それを通しての勝利を私たちに約束するとのみことばをも聞かなければなりません。ですから黙示録は、あらゆる時代と場所、とりわけ国家的迫害の中にあるクリスチャンへの慰めと励ましのみことば。殺された小羊は竜に勝利したのです(黙示録一二・七―一二)。

● 時代的さばきと終末

問題は、黙示録の「同時代的」(temporal、使徒ヨハネが生きた時代の)みことばが、最後の終末的現実ときわめて密接に結びついていること。第一八章のローマ陥落は最終的結末の第一章に見えますし、同時代的さばきの描写は、その多くが世の終わりを暗示することばや思想と織りまぜられているのです。この点については、次のような解釈のヒントを提案しましょうか。

○「絵」の字義的成就を期待しない
未来を描いた絵は、いかに現実を表現してはいても、あくまで絵。それを現実と混同したり、細部まで成就すべきと考える必要もありません。最初の四つのラッパが神のさばきの一部として自然災害を宣告する時(黙示録八・七―一三)、その字義的成就を期待するよりも、この絵に出エジプト時のパロに対する神災害がこだましており、差し迫るローマの圧制に対して信者を励ます目的があることを見て取るべきでしょう。

○「すぐに」さばきが?
神のさばきの確かさを伝える絵を、私たちの限定された視座から「すぐに」そのさばきが来ると解釈してはなりません。キリストの死と復活で敗北したサタンは、教会に大損害を加えるため「地上に投げ落とされ」(一二・九)ますが、自分の時が短いことを知っています。しかし、その短さとは「すぐに」ではなく「限られた」という意味。サタンが永遠に縛られる時は必ず訪れますが、それがいつ来るか、誰も知らないのです。

○ 現代の出来事との関連
「同時代的」が「終末的」と密接に結びついた絵は、両方が同時に起こると見るべきではありません。たとえ元々の読者がそう理解したとしてもです。さばきと救いの終末的側面は、多くの絵に「いまだ」の可能性があることを警告してくれます。その一方、私たちにとって未来の事柄を抜き出し、理解するための固定した規則はなし。現代の出来事がどのように黙示録の絵と適合するか、細かく推測することに時間をかけすぎないよう注意しましょう。

○ まだ成就していないこと
その絵には、まだ成就していない第二の面を有する多くの例がおそらくあるでしょうが、それをどうはっきりさせるべきかの鍵は与えられてきませんでしたし、新約聖書はこの点あいまいです。例えば「反キリスト」。パウロ書簡ではある限定された人物ですが(・テサロニケ二・三―四)、黙示録一三―一四章ではローマ皇帝の形でやって来ます。どちらもその出現は終末的に見えますが、ヨハネの手紙第一では教会に侵入してきた偽預言者への言及により再解釈されています(二・二○―二三)。歴史的に教会は、アドルフ・ヒトラーなど世のさまざまな独裁者を反キリストの表れと見なしてきました。この意味では多くの反キリストが出現し続けているとも言えましょう(・ヨハネ二・一八)。しかし、終末の出来事に伴う世界大の反キリストとは何か、黙示録一三―一四章はそれを特定しているのか、答えは可能性の域を出ません。
○ 成就と完成は確か全体として終末的に意図された絵は、今でもそう解釈すべきですから、黙示録一一・一五―一九、一九・一―二二・二一は全く終末的。いまだ成就していないみことばと断言すべきでしょう。しかし、たとえ「絵」だとしても、その成就は神ご自身の時と方法でなされ、どんな驚くべき絵よりも圧倒的に偉大。「いかに」成就するかはあいまいでも、神がそれを実行し完成するのは確かですから、最初の読者同様、私たちへの警告と励ましなのです。最後に、信徒にも読みやすい黙示録解説として、岡山英雄著『小羊の王国―黙示録は終末について何を語っているのか』(いのちのことば社、二○○二年)をお薦めします。本連載は今回で全三十回完結です。長期間お読みくださり、ありがとうございました。