子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第22回 どうすれば暴力をふるわずにいられるか

永原郁子
マナ助産院院長

七月号を読みました。男性からの暴力行為について、これまで、自分にも大なり小なり見覚えがあることが書かれていまして、どうすればこの欠けのある自分が変えられていくのか、ご教示いただければ幸いです。また、これをよく読むと女性(伴侶)から暴力を受けることもあるような気がします。一方的に男性の問題なのでしょうか?(例:体の暴力は男性のほうが力が強いですが、心の暴力、社会的暴力、経済的暴力については逆なことがあるような気がします)
悩める中年クリスチャン男性より(51歳)

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ご投稿ありがとうございます。まず、女性から男性へのDV(ドメスティック・バイオレンス)についてですが、おっしゃるように存在しないわけではありません。
もともとDVの背景にあるものは、男性優位の社会意識や、子どもを産み育てる女性に対して経済的な価値が認められない社会意識、攻撃性や強引さや乱暴を〝男らしさ”と容認する社会意識であり、これらが男性のDVを許してきたわけです。したがって男性から女性への暴力が圧倒的に多く、DV相談の九〇%以上が男性から女性への暴力です。しかし、女性から男性への暴力もわずかに存在するということも事実です。女性をDVから守るシステムが増えてきているのに対して、男性をDVから守る相談場所がほとんどないことや、男性の被害が軽く見られがちなことなどから、相談できずにいる男性が実際はもっといるかもしれないとも言われています。
二〇〇二年から内閣府が行っている調査では、DV被害を受けたことがあると回答した男性は二〇〇五年に一七・四%、二〇〇八年には一七・八%と、わずかですが増加傾向にあります。また二〇〇八年に東京都の相談窓口に男性から寄せられたDVに関する相談のうち、自分の暴力に対する相談が六割、妻から暴力を受けているという相談は四割で、そのうち七割が身体暴力、中には凶器を突き付けるというものもあったといいます。ほかにも、怒鳴る、携帯電話のチェック、外出制限などの精神的暴力が存在します。
ただしこれは相談窓口に行った男性が対象であり、妻に暴力行為をしている男性のほとんどは自分の問題行動に気づいておらず、相談に行くとは考えにくいでしょう。また、妻が凶器を持ちだすに至る背景には、まず男性からの暴力があったかもしれないと考えることもできます。なぜなら、夫から妻へのDVの九九・九%が「殴る、蹴る」なのに対し、妻から夫へのDVの八七・五%が、「主に刃物を中心とした凶器」を使ったDVなのです。暴力を振るわれていた妻が、追い詰められて逆襲したという可能性もあるのではないでしょうか。さらに、妻に暴力をふるっていても、周囲に自分は正しい、あるいは被害者だと思わせる行動をとることも十分に考えられますので、数字だけを単純に受け止めるわけにはいかないとは思います。
とは言え、相手の言動によって自分はだめな人間だと思いこまされたり、自分が悪いからこうなったと思ったり、考えることができなくなってしまったり、相手に対して恐怖を感じ、いつも怯えているなどの圧力がかけられているとしたら、それはやはり、男性であっても女性であってもDVを受けていると考えなければならないと思います。
二〇〇七年に神戸市で公立高校対象に行われた調査では「デートDVを受けた」男子は二八・七%、女子は三八%、と女性のほうが多かったのですが、「いのちの危険を感じるほどの暴力を受けた」は男子一・四%、女子一・三%で、ほぼ同じでした。少しずつ社会が変わってきているのかもしれません。ともかく、どちらにしても人間関係に力の差があってはなりません。対等な関係、むしろお互いに尊敬し合える関係づくりを目指したいと思います。新約聖書のピリピ人への手紙2章には、「何事でも自己中心や虚栄からすることなく、へりくだって、互いに人を自分よりもすぐれた者と思いなさい。自分のことだけではなく、他の人のことも顧みなさい」(3、4節)とあり、続けてキリストが〝人に仕えた”ことに触れています。神でありながら低くなられたキリストに倣う者でありたいですね。
ご質問に、「欠けのある自分が変えられるには」と書かれていますが、「自分は正しい」としていないことが、すでに妻とよい関係を結ぶ第一歩になっている気がします。ただし、「お前のために自分はこんなに努力している」という気持ちは相手に対する威圧なので気をつけなければなりません。もし成育歴において暴力を受けた経験があれば、カウンセリングなどでその傷をいやすことも今後の生き方を変える方法かもしれません。また、DVに関する男性の自助グループは非常に少ないので、建て上げに尽力されるのもすばらしいことかと思いますが、いかがでしょうか。

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永原さんが質問に答えてくれます。