子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第12回 生殖医療の進歩について

永原郁子
マナ助産院院長

出産に関する医療技術が急速に進んでいます。たとえば、人工授精、代理母、受精卵の遺伝子検査など、人間が越えてはいけない線を越えているのではないかと思えることがあります。永原さんは、日々いのちの誕生と向き合うクリスチャンとして、どう思いますか。(東京都/S・T)

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近年、医学や医療技術の進歩は目ざましく、特に「人の誕生」を扱う生殖医療の分野では技術の急速な進歩に対して、倫理的、社会的、法的な整備が後追いをしているような感があります。生殖医療は、三つに分類することができます。①妊娠、出産を回避する技術(人工妊娠中絶や避妊)②不妊治療、③生まれてくる子どもに関する技術です。
ご質問の人工授精や代理母は、②の不妊治療の技術についてですし、受精卵の遺伝子検査(着床前診断)は、③の生まれてくる子どもに関する技術ということになります。
そもそも、「わが子を産み育てたい」「丈夫な子を……」という思いは普遍的で、自然なことです。時には大変強い願望としてご夫婦を圧迫している場合もあります。そのような願いをかなえることが可能になってきているのです。
たとえば、ご質問の「人工授精」は、採取した精子を排卵時期に子宮内に注入するのですが、夫の精子の場合とそうでない場合があります。また夫の精子を冷凍しておき、夫の死後、人工授精させることも可能であり、現実に夫の死後の冷凍精子による子どもの認知請求が最高裁に出されたという事実もあります。
「体外受精」は、排卵誘発剤により過剰に排卵させてそれを採取し、卵子と精子を培養液の中で受精させ、受精卵を胚の状態まで培養して、子宮に戻すという方法です。排卵誘発剤の開発や超音波技術の進歩、胚を凍結させる技術などの進歩、また培養液内での受精を顕微鏡下で行う技術などが体外受精を発展させてきました。
卵子や精子、胚を操作することも可能です。クローン技術もその一つです(受精後、細胞分裂が進んだ状態の胚を、核を取り除いた卵子に挿入し、子宮で育てる。または体細胞を、核を取り除いた卵子に挿入して子宮で育てる)。
代理出産にも二つの方法があります。子どもを育てたい夫の精子を代理母の子宮に人工授精する方法と、夫婦の精子と卵子を体外受精させて、代理母の子宮に挿入する方法です。代理母が自分の母や姉妹というケースもありますし、そうでない場合も考えられます。
生まれてくる子どもに関する技術も様々ですが、「着床前診断」は体外受精が前提です。培養液の中で受精させ、分裂を繰り返している細胞の一部をとって診断した後、子宮に挿入します。
人類の知恵は、これらの技術を可能にしましたが、それがどこまでが許されるのかを考えることも、人類の知恵だと思います。
それは、治療を受けたい親の立場とそれを提供する医療者の立場だけに目を向けるのではなく、生まれてくる子どもの立場に目を向けることが一つの目安になるのではないでしょうか。少なくとも不妊治療で生まれてくる子どもが将来、出生の事実を聞いたときに、自分のアイデンティティーが保たれる範囲を考えたいと思います。また、ハンディーを抱えて生きることを否定するような、いのちへの介入は慎重に考えなければならないと思います。
またもう一つの目安は、いのちのどの瞬間から、人として捉えるかということではないかと思います。
生物学的に言うと、受精した瞬間から、または子宮に着床したときからという考えですし、医学的には臓器の分化が始まる受精後十五日以降。母体保護法から考えると二十二週からといえるかもしれません。クローン技術などの規制法では胎盤が形作られ始めたとき(受精後七日前後)。刑法や民法でも違いがあります。刑法では、お母さんから胎児の一部でも露出すれば人として認めますが、民法では胎児が全部お母さんから出ないと人として認めていません。人としていのちの尊厳が守られる時期は、このように諸説あります。
私の考えは、人として肉体のいのちの時計が動き始めるのは「受精の瞬間」からなのではないかと思っています。ですから、余った胚を捨てたり、胚を操作するなど、受精後の介入は慎重に考えたいのです。
生殖医療の制約の線引きは重要な課題です。「バベルの塔」にならないよう、主の導きを祈りたいと思います。

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