八ヶ岳のふもとから 第6回 アツアツの天丼とお吸い物

松村登世

6月初め、まだつぼみの固い山アジサイが梅雨空の下、急に可憐な花を開くとわが家の山庭がぱっと明るくなる。昨日までの冬布団を片付けて、家中を夏らしくしつらえると何だかうれしくなる単純な私である。山麓は、むせかえるほどの新緑におおわれて、すべての植物が生長する時期、畑の野菜たちも順調らしい。
初なりのトマトやナスは宝物のようにいただくのだが、かご山盛りに採れ出すとその扱いに頭を悩ます。贅沢な悩みである。これからのわが家の食卓は、とにかく野菜三昧で、老人ふたりの食卓とは思えない皿数と量になる。夫は良く働くのでどれだけ食べても太らないが、私はのんびりだらだら過ごすのが好きなのでどんどん太るのが怖い。しかし、山に暮らし始めて10年以上になるが、年々健康になっていくような気がして少々戸惑っている。やはり空気も水も食物もおいしい環境にあるのだからしかたないこと。これもまた贅沢な悩みである。
ランチに友人をおよびして、野菜づくしの料理を出して助けていただくこともある。ご飯に野菜のてんぷらをたっぷりのせて、おいしいだし汁をかけた天丼は、だれもが喜んでくださる。
お吸い物は、うめぼしと刻みのりに少し醤油をかけて熱湯を注いだもの。これはたしか、夏風邪でもひきそうな時に飲むと体の芯がとても温まるので良いと亡き母が教えてくれた。昔の人の知恵と、神さまの知恵をいただいてきょうも生かされている私たちだ。

レシピ recipe

【どんぶり】……アジの3枚おろし、ナス、シシトウのてんぷらをのせて、つゆをかけていただきます。※つゆはかけすぎないこと。
【お吸い物】……うめぼし1個と、きざみのりをお椀に入れ、醤油を少したらして熱湯を注ぐだけ。あれば白髪ネギを散らします。(キュウリとナスのぬか漬けでも添えれば言うことなし)

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編集者より

『君への誓い』で、クリキットの信仰は日曜の午前だけではなく生活全体に及び、キムはそれにも引かれたこと。事故後、妻を助けようとするあまり、キムは親のように接してしまい、対等な関係が築けなかったこと。夫婦とは何なのかが分かる気がします。キムの決断や葛藤に感動するのは、実話だからでしょう。(永倉)

ホームレス支援で知られる奥田知志師を追った、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見た。大震災の支援においても、様々な可能性を模索しつつ、かかわる人と本当の意味での絆を結び、その人を生かす新たな道を提案していく奥田師の姿に、何も感じない人はいないと思いました。(加藤)