今年のクリスマスは物語を贈ろう! ■信仰の冒険を伝えるために

古川和男
日本長老教会 東吾野キリスト教会 牧師

『ホンモノノマチ』は、長年アメリカの教会で教会教育に活躍されてきたスター・ミードさんによる不思議な冒険物語です。少年ディランといとこのクレアが、本物の「クリスマス」さがしへと出かけていくのです。「ネタばらし」はしたくないので、筋書きは読んでのお楽しみとすることとして……。
ミードさんは(会ったことはありませんが)、ウェブサイトで見ると、教会にいる、底抜けに明るくて、子ども好きでエネルギッシュなおばさん、という気がします。何とかして、子どもたちや若者に、イエス様を信じるってどういうことか知ってもらいたいと願い、想像力を駆使して書いたのがこの『ホンモノノマチ』なんだろうなぁ、と勝手に想像してしまいました。
信仰生活とはドラマであり、ものすごくエキサイティングで、知恵と忍耐と勇気を伴う冒険なのだとミードさんが心底信じていて、そう伝えたい思いが溢れている作品です。ファンタジーとはいえ、ドラゴンも魔法使いも出てきませんし、「これはどうやったんだろう」と気になるところもあります。ですが、ミードさんはただの冒険物語を書こうなんて思っちゃいないのです。ディランとクレアに託した寓話から、私たちがイエス様に出会う人生へと踏み出すことを呼びかけているのです。
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ディランが、旅の途中で出会うキャラクターに、どこに行けば「ファウンダー」を見つけることができるかを尋ねるたび、くり返される歌があります。
ファウンダーさがすの?
そりゃ無茶だ!
さがしてもらうの 待ってなきゃ
どこにいたって いつだって
見つけてくれるよ キミのこと

七回はくり返されるこの歌は、全体のテーマでもあるのでしょう。ディランがファウンダーをさがす物語のように見えて、実はファウンダーがディランを見つけてくださるというのです。そのことの裏には、私たちがキリストをさがす(求める、愛する、仕える)以前に、キリストこそが私たちを見つけだし、捕えてくださっているというメッセージがあるように思います。
ミードさんの所属するグレース・カベナント・チャーチはリフォームド・バプテストという神学的立場を宣言しています。リフォームドが強調するのは「神の主権」。救いにおいても、百パーセントの神の主権が告白されるのですが、本書がくり返して歌い、ドラマチックに展開し、ディランが「旅の終わりにわかったこと」の背景にもそれがあるのでしょう。読者はディランとクレアの冒険に引きずり込まれながら、一緒に、私たちを捕えてくださっている神の恵みに目を開かれるのです。

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神様が用意されている信仰の旅は、暗闇や逆風、困難や疑いとの戦いが続く冒険です。ファンタジーはそれを教えてくれる最良の入れ物です。人生には「スミスさん」のような人も絶えず、不思議なくらい登場します。「悪のはびこる街」を通れば、自分の罪深さを見せられます。しかし、誘惑や失敗、回り道こそ、恵みの神と出会わせていただける旅路なのです。それは一人ひとり違う道であり、パターン化することのできないユニークな冒険です。
ジョン・バニヤン『天路歴程』、C・S・ルイス『ナルニア国年代記』、マクドナルド『ファンタステス』、チェスタトン『木曜の男』、トールキン『指輪物語』、ヤング『神の小屋』……。私が今まで出会ってきたこうした本は、神様から贈られたかけがえのない同伴者でした。この冬、みなさんもよい物語との出会いがあるとしたら、それは私たちを捉えて、導いてくださる神様からの贈り物です。