今年のクリスマスは物語を贈ろう! ■「物語」が持つ意味

松永美穂
早稲田大学文学学術院教授 ドイツ文学者

私たちは幼いころから、さまざまな「物語」を聴いて育つ。民話や昔話、おとぎ話、伝説……。そうした「物語」の中では大きな事件が起こったり、登場人物が理不尽なできごとに巻き込まれたりする。平穏な日常生活からとつぜん秩序が奪われ、故郷を追われたり、愛する人の死に遭ったり、気がついたら別の世界に来ていたり……。そこでは越えなければいけない試練が行く手を阻んだりするが、一方で新しい出会いや初めての体験がある。不安の中に投げ込まれた主人公は、やがてそれを克服し、自らのうちに隠された才能に気づいたり、友情や信頼の大切さを学んだりする。「物語」の結末においては秩序が回復することが多いが、しないこともある。古い秩序に代わって新しい秩序が生まれることも、喪失の中で悲しい結末が訪れることもある。
いわゆる「教養小説」(ドイツ語でBildungsroman)と呼ばれるジャンルがあり、十八世紀から二十世紀にかけて、数々の優れた長編小説を生み出した。ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』や、トーマス・マンの『魔の山』などを思い浮かべてもらえばいいかもしれない。一人の主人公が遍歴の旅に出、さまざまな困難に直面するが、最後は成長して元の場所に戻ってくる。これがヨーロッパ中世の「騎士物語」であれば、難しい課題を解いて王の娘と結婚し、自ら王となる、という結末が定番だろう。「教養小説」は、その市民階級バージョンといえそうだ。
「物語」が持つ役割の一つは、やがて実社会に出て新しい体験をすることになる若者たちに、前もって未知の世界についての警告や励ましを与え、冒険に耐え抜くための勇気を与えることにあると考えられる。自分の目の前にある現実だけがすべてではないことを教え、想像力や他者への共感を育てていく。小さな子どもには、ぜひたくさんの「物語」を聴かせてあげてほしい。

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『ホンモノノマチ』も、「教養小説」の枠内でとらえることが可能である。本物のクリスマスを求めて旅立つ少年少女、彼らを待ち受ける冒険。この本では「見つけてもらうこと」が一つのキーワードになっている。古典的な遍歴の旅では、自らのアクションを通して貴重な品物を手に入れたり、誰にも解けなかった謎を解いたりするのが通例だが、『ホンモノノマチ』ではアクションもさることながら、目に見えない同伴者たる「ファウンダー」の存在が重要となる。その「ファウンダー」と自分との関係に気づいたとき、主人公は生涯の支えとなる洞察を手に入れる。子どもたちの内面の旅をファンタジータッチで描いた、意欲的な作品だと思う。

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『ホンモノノマチ』
スター・ミード 著
中嶋典子 訳 
四六判 288頁 1,365円

<あらすじ>
 毎年、「クリスマス」の街で過ごす休暇が大好きなディラン。ある日、クリスマスにある教会の裏庭で1枚の真っ赤なチラシを見つける。そこには「ずっと、クリスマスにいたいですか?」 そして、門の外で見つけたのは、「本物のクリスマス」の街――。
「本物のクリスマス」に入るためには、ファウンダーという人物の認定を受けなければならないと知ったディランは、いとこのクレアとともに、ファウンダーをさがす4日間の旅に出る。その旅では、不思議なできごとがいくつも巻き起こって――。

*イラスト大募集!

 『ホンモノノマチ』に登場するキャラクターのイラストを大募集♪ 優秀な作品を送ってくださった方には、希望書籍をプレゼント!
(本紙に掲載されている全書籍から選べます。第3希望まで明記ください)【2012年末締切】
<応募方法> 住所、氏名、年齢、電話番号、希望書籍名を明記し、〒164-0001東京都中野区中野2-1-5いのちのことば社『ホンモノノマチ」イラスト係へ

※発表は発送(来年1月中)をもってかえさせていただきます。
※優秀な作品は紙上にて紹介する場合もあります。

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■今年は二冊とも!

感動の実話
アメリカの週刊誌「ガイドポスト」に投稿された、クリスマスに起こった不思議なできごと。それらの実話をまとめた『とっておきのクリスマス』が、長らく品切れとなっていた『続とっておきのクリスマス』とともに再登場!

『とっておきのクリスマス 心あたたまる12のおはなし』
ガイドポスト編 佐藤敬 訳
B6変型判 112頁 1,260円

『続 とっておきのクリスマスやさしい気持ちになる9つのおはなし』
ガイドポスト編 佐藤敬 訳
B6変型判 88頁 1,155円

■十歳から読める♪

聖書ものがたり
聖書全六十六巻の内容をコンパクトにまとめた『バイブル・ストーリー・ブック』。 「一度も通読できずにいた旧約聖書が初めて身近なものに感じられました」「祭司、大祭司の装束、幕屋と祭司の務めがイラストのおかげで初めて理解できました」「難解な手紙や黙示録も、前置き説明がしっかりあるので読んでいて理解しやすい」など、地図や図表、イラストなども豊富で、幅広い世代に大人気!
『バイブル・ストーリー・ブック旧約聖書編・新約聖書編』
内田みずえ 著
B6変型判/256、232頁
各1,470円 <箱入りセット2,940 円>

■不条理なこの世界

真の光を探す物語
軍事国家ギルシテで育った少女ラフィア。ある日、古物屋で美しいネックレスを見つけるが、その魔石ジスを手にしたことで悪魔ヴァルーガをよみがえらせてしまう。ヴァルーガを否定しつつも、自らの中にある闇に気づかされ、葛藤する少女。なぜ自分は生まれたのか、この世界はどうしてできたのか。戦いが激しさを増す中、ラフィアは世界の造り主を求める―。闇の中から聖書を伝えようとする衝撃作!

『スタート・アゲイン上・下』
石川ヨナ 著
B6変型判 272,288頁 各1,200円