三浦綾子没後10周年
 三浦作品で福音を伝えよう! 今夏発売!「三浦綾子100の遺言」について

込堂一博

今夏に出る本の概要

 私が十代の頃、あの『氷点』が出版されて大変な「氷点ブーム」が起きました。私は、ちょうど新約聖書を手にして、教会に行き始めた時期でもあり、小説『氷点』から非常に大きな感動と影響を受けました。

 やがて牧師となり、故郷の千歳福音キリスト教会から旭川めぐみキリスト教会に一九九一年四月転任となりました。この教会は、三浦光世・綾子ご夫妻の旧宅を譲り受けて開拓伝道が始められた教会と、以前から聞いていました。三浦ご夫妻のご自宅は、めぐみ教会から徒歩二分の近さにあります。このような関係から、めぐみ教会に赴任して綾子さんが召されるまでの約八年間、何かと親しいお交わりを頂き、いろいろな面で温かい励ましを頂きました。

 一九九九年十月、綾子さんが召された直後、テレホンメッセージ(当時三分間)で綾子さんの言葉を引用して追悼メッセージを何回かしました。このことが地元紙、北海道新聞の記事で大きく取り上げられたため、テレホンメッセージの利用者が昼夜を問わず急増、時には一週間で約千人近い利用があり、ただただ驚いたことです。

 当初、数回で終了しようと考えていましたが、あまりに反響が大きく止めることができず「三浦綾子さんの言葉と聖書」というテーマで、約十年間続けてきました。

 今回、三浦綾子さん没後十年の節目の年に今までメッセージした百回分を選び、多少修正・加筆して出版するように導かれました。

この本に込めた思い

 三浦さんが召されて十年、社会も世界も大きく変わり、ますます混沌としてきています。

 このような時代だからこそ、改めて三浦綾子さんの言葉に聞くことが何より重要と考えました。特に、三浦さんは、個人の尊厳を非常に大切にされました。現代は、格差社会となり、弱者切り捨ての風潮大ですから個人の尊厳を取り戻すことが最も急務だと言えます。さらに三浦さんは、戦争中、大変な軍国主義教師であったという深刻な反省から戦争反対、平和の問題については、どの小説やエッセイにも必ずと言って良いほど取り上げています。戦争の非人間性、残虐性そして平和であることの大切さを繰り返し繰り返し言及しています。

 現在の社会は、二〇〇一年の九・一一同時多発テロ以来、アフガン・イラク戦争があり、最近は北朝鮮のミサイル発射、核実験の問題等で戦争の脅威が現実的なものとなりつつあります。しかも世論は、右傾化し一部若者に「戦争待望論」が出始めています。戦争は、どうして起こるのか、戦争は、なぜすべきでないのか、防ぐにはどうすべきか、三浦さんは、明確に言及していますので、その三浦さんの言葉に今こそ真剣に耳を傾けるべきだと考えています。

三浦綾子さんの魅力

 三浦綾子さんは、ご自分が小説を書く目的は、キリストを伝えることであるとはっきり断言されています。この社会に対して三浦綾子さんは、キリスト者であるという旗印を鮮明にして、キリスト教信仰を土台として小説やエッセイを書かれています。ですから一本筋が入っていて、ぶれていないのが大きな魅力です。さらに、ご自分の実体験から、天の父なる神のあわれみ、愛、優しさ、赦しというものが、三浦作品には込められています。

 特に人々を見る目の温かさ。たとえ、その人が善人でなくて、悪人、不良であってもです。その温かさ、優しさ、赦しというものが三浦作品を読む読者の心をしっかりつかむのだと思います。さらに三浦作品を通じて、聖書を読み始めクリスチャンになる人々が非常に多いのも事実です。ここ数年、私たちの教会で三浦作品を読んで三名の壮年男性がクリスチャンになりました。最近、演歌界の大御所作曲家、船村徹さんが、熱心な三浦作品のファンだと聞いて驚くとともに嬉しく思いました。しかも「三浦綾子さんの歌」を公募した作詞に船村さんが作曲し、今春CD発売され大きな反響を呼んでいます。私は、三浦文学を通じての日本宣教に、潜在的な大きな可能性があると常日頃考えています。今回の『三浦綾子一〇〇の遺言』を通じ多くの方々に三浦綾子さんの言葉がよみがえり、生きる勇気と励まし、希望を持っていただければ、こんなに嬉しいことはありません。