ブック・レビュー 闇を突き抜ける光

 『きぼうノート  』
吉川 直美
シオンの群教会牧師

『信じてたって悩んじゃう』『小さな門につづく道』などで、等身大クリスチャンの葛藤や疑問を代弁してくれてきたみなみななみさんは、本書で何を語ってくれるのだろうか。そこには、身近な誰かを思い起こさせる一人の感受性豊かな女性がいる。彼女は、時に素朴な瞳で天を見上げ、時に目を伏せてうずくまる。そう、誰にでもあるのだ。神様、あなたは本当にいるのですか。私はあなたに見捨てられていませんか、と尋ねずにはいられない昼が、希望のかき消えた夜が──。
添えられている飾り気のないことばは、記憶の底に刻み込まれた声のようであり、はじめて聞くようにも思える。種明かしになってしまいそうだが、巻末の参照聖書箇所リストを目にして、ここに連ねられたことばのすべてが聖書から採られていることに驚かれるかもしれない。『The Message』や『New Living Bible』が親しみのある日本語に訳され、丁寧に紡ぎ出されているので、聖書に親しんだ者も読んだことのない者も、永遠からの愛の声に思わず引き込まれずにはいられない。
胸を打たれるのは、本書が紛れもなく「きぼうノート」であることだ。私たちはもはや、東日本大震災のもたらした悲惨と恐怖を意識せずに、軽々しく希望を語ることのできない時代に生きている。想像をはるかに超える痛みと先の見えない不安を前に、希望ということばを失ったまま立ち尽くしている。彼女は、そんな者たちの失った声を代弁し、静かに、しかし深く深く神との対話を続ける中で、「あたらしい希望」を見いだそうと光の道を歩き出す。『きぼうノート』は、私たちの時代のヨブ記なのかもしれない。
この企画が立ち上がったのは三月十一日以前であったそうだが、あのむごい日の前にすでに本書の種が蒔かれ、こうして手にすることができたことにも、私は希望を見いださずにはいられない。きっと本書は、書き手から読み手に渡ったときから、読み手自身が心の内に「きぼう」を書き継ぐためにあるに違いない。だから私も『きぼうノート』をかばんに忍ばせ、彼女のようにこの地を歩こうと思う。

『きぼうノート』
みなみななみ 著

B6変型判 1,050 円
フォレストブックス