ブック・レビュー 質の高い教育とは


東喜代雄
日本キリスト改革長老 武庫之荘教会 牧師

この本は四部構成になっています。
第Ⅰ章は、子どもの日常のさりげないしぐさ、動き、言葉を丁寧に記録し、どう見つめ対応するかが語られます。「子どもの言うこととすることで意味のないものは一つもない」と思いますが、著者はそこにある現象の意味を問いつつ、丁寧に共感的に寄り添います。
保育も子育てもそこにある現象の意味に気づくことから始まります。この「気づき」「気づく」こそ、保育や人生を「築き」「築く」のです。著者の温かさ優しさが「人間とは」「保育とは」という本質的な問いに答えてくれます。何より子どもの視点、視座が最大限に大切にされているので、子どもとともに育つための良い参考書といえるでしょう。
第Ⅱ章は、幼稚園の四季それぞれに展開される保育のありようを考察します。園の置かれた環境や条件を加味しながら、子どもにとって大切な遊び、そこで涵養されるさまざまな能力や思いやりの育ちを見てとっています。 

段落ごとに述べられる「園だより」(直子の手紙)は著者の人格そのものです。
第Ⅲ章は「なおこ園長の休日」としてくくられていますが、キリスト者の証といえるでしょう。主婦であり牧師夫人、母親であり保育者、園長であり地域人としての活動が面目躍如としています。読みながら勇気づけられ教えられました。
私にとっては第Ⅳ章が圧巻でした。赴任されたころ園を訪ねた者として「よくぞここまで」と感慨深いです。うまくいかなくて挫折しそうになった話(一六八頁)がありますが、乗り越えられた今を神さまの祝福と感謝いたします。
欧米でいま、幼児期に質の高い教育を受けることが、その後の成長に大きく影響すると科学的に実証されつつあります。「質の高い教育」とは特別のシステムや方法論ではなく、まさにここに述べられている人格の根源的なふれあい、ともに育つさながらの姿なのです。