ブック・レビュー 聖書信仰、その豊かな歴史的遺産を現代に活かすために


山﨑ランサム和彦
リバイバル聖書神学校 校長

本書は二〇一四年十一月に行われた日本福音主義神学会全国研究会議における、著者・藤本満先生の発表を元にしています。私もその場にいて先生の発表を拝聴し、深い感銘を受けた者の一人でしたので、本書の出版を心待ちにしていました。出版後早速入手して、研究会議の感動を新たにしつつ読了しましたが、期待に違わぬ好著と言えます。
本書の主題は、タイトルにもあるように「聖書信仰」です。今日の福音主義では、この言葉は「逐語霊感」、「十全霊感」、そして「無誤性」といった諸概念と関連づけて語られることが多いですが、著者はそのような福音主義の聖書観が形成されてきた歴史的過程を宗教改革にまで遡って丁寧に跡づけ、さらにポストモダニズムなどの現代的課題にも触れながら、将来の可能性を探っておられます。著者の主張を一言でまとめると、福音主義の「聖書信仰」は歴史的に豊かな多様性を持っており、これからの教会はその豊かな遺産にもっと目を向けていくべきだ、というものです。
私たちは誰でも、自分の置かれた時代と文化の制約の中で生きています。歴史を学ぶことによって、私たち自身の信仰理解をより大きな文脈の中で客観的に見つめ直し、今までは気づかなかった真理の諸側面に気づくことができるようになります。本書は「聖書信仰」という概念についてまさにそのような気づきを与えてくれる良書といえます。
本書は福音派の中ではかなりセンシティブな問題に正面から取り組んだ意欲作といえます。個別の論点については著者に同意しない方もおられるかもしれません。しかし、本書の出版を機に、福音主義に立つ日本の教会でも、「聖書信仰」をどう理解し、どう生きるかということについて、活発で実り多い議論が交わされていくようになることを願っています。本書はどちらかというとある程度の背景知識のある教職者・神学生向けの内容ですが、広く信徒の方々にも読んでいただきたい、お薦めの一冊です。