ブック・レビュー 混乱や苦悩の中に確かに輝く神の恵み

 『神を信じて何になるのか』
鈴木 茂
仙台聖書バプテスト教会牧師

「神は愛であり善であり、また全能である」と、私たちは疑うことなく告白する。しかし人生には、この告白を裏切るような痛々しい出来事があまりにも多い。どの時代に生きる人も「なぜ」と神に叫び続けてきた。聖書の中にも多くの「なぜ」という訴えや叫びが、隠されることなく記されている。神を信じていても、苦しみや痛みをもたらす現実から完全に守られることがないにもかかわらず、それでもなお神を信頼する意味があるのか、という私たちの素朴な疑問に対して、フィリップ・ヤンシー氏は答える。
著者は、六つの国々の血なまぐさい事件や、腐敗した社会の現実の中に生きる人々に出会い、上からの視線ではなく、同じ弱さを持つ一人の人間として彼らの苦しみに耳を傾けている。そして自分自身にも真摯に問いかける。神を信頼する信仰が果たして私たちの存在や人生に違いをもたらすのだろうか、と。過去の弁証論的アプローチを脇に置き、さまざまな疑問に対しては即答を避け、明確な答えを出そうとすることもせず、最後の最後まで真摯に問い続けていく。そして、疑問点はそのまま疑問として残す。
そのような姿勢で書かれる文章を通して、私たちは著者とともにこの世の現実を逃避するのではなく、通過できるように導かれていく。読み進むうちに著者の視点に私たちの視点が合わされ、今まで気づけなかった闇と混乱の中に、確かに輝く神の恵みが見えるようにされていくのだ。「なぜ」に対する答えが与えられたからではなく、「なぜ」と思わされる出来事や状況の中に、「ともにいる」と約束されたイエス・キリストと、この方が与えてくださる恵みに触れられて、信仰者は変えられていくのである。
神の恵みは、確かに思いがけない場所に芽を出す。混乱し、深い闇に包まれている所にこそ、神の恵みはさらに輝き出るものである。罪や死がはびこるこの世にあっては、苦しみから完全に守られることはないが、私たちはその中で神のご臨在と働きによって「神の恵みの証し」となることができるのである。三月十一日の大震災を経験した私にとってこの本は、神からの特別なプレゼントとなった。